夢幻の扉~field of dream~ ─続編─

玲莱(れら)

ナンプからの招待状

<プロローグ>

0.ナンプからの招待状

 ある晴れた四月の朝、いつものように朝の散歩のあと、部屋に戻って朝食を食べてから叶依──いや、カーナは母親アルラの元で、次期王になるであろう我が子・リュートに食事を与えていた。

 地球とは食べ物が全く違うステラ・ルークスでは、子供の育て方も少し違っていた。生まれてすぐの子供には栄養価の高い果実をつぶしてミルクのような飲み物に混ぜて飲ませた。リュートがあまりに美味しそうに飲んでいると、アルラは「カーナが小さい時もこれが好きだったのよ」と言っていた。果実は甘くて美味しかったがミルクのようなものは苦味があって、大人でも苦手な人は多かった。実際伸尋──ノーブルの母親であるパフェットに聞いてみても、ノーブルはあまり好まなかったらしい。

「やっぱ私、変わってるかも……」

 カーナはいつか地球でラジオに出た時にそんなことを言った気がした。あの頃はただ自分の行動がおかしいだけだと思っていたが、まさか大抵の惑星人が好まない飲み物を好んでいたとは思いもしなかった。

「でもこの子、あなたよりは王様に似てると思わない?」

 確かに好みはカーナに似ているが、顔はノーブルそっくりだった。

「うんそっくり……でも耳は海輝に似てる」

「カイキ? あぁ、あの子ね。そういえば似てるわねぇ。もしかして混じって──」

「そんなわけないって! 私と伸、ノーブルの純粋な子に何言うの……ねー、こんな酷いこと言うおばあちゃん放っといてパパのところ行こうねー」

「そっか私ももうおばあちゃんなのね……」

 アルラはまだ高齢ではなかったが、孫が存在する以上、祖母という立場に変わりはなかった。

 アルラの部屋のある塔とカーナの部屋がある塔は遠く離れたところにあった。カーナは子供を抱いて階段を下り、庭に出てベンチに座った。自分が小さい頃によく遊んだその場所は昔と全く変わっていなかった。ただ禁断の森の周囲には壁が作られ、それを乗り越えない限り中には入れないようになっていた。今でもあの頃のことを覚えているカーナとノーブルはもちろん、そこに近づこうとする人は誰もいなかった。

(怖かった……でも落ちて良かったかな。……そういえば田中君と紗智子元気かな? 知原先生とか……会いたいけどそんな簡単に行かれへんし……あとで水晶で見ようっと)

 カーナは子供を抱いて立ち上がり、今度はさっきいた塔と反対方向にある塔に向って歩いた。途中、城下町が見えるところで立ち止まると、人々が市場で買い物をしている様子がうかがえた。地球でも同じようなことになっているのだろうと思いながら塔の階段を登り、最上階の王室に入っていった。

「遅かったな」

「うん……庭でゆっくりしてたから」

 ノーブルは読んでいた本を閉じて、カーナが抱いていたリュートの顔を見た。

「やっぱ俺に似てるよな」

「ははは。似すぎやって。目つきとか一緒やもん。さっきもお母さんとそんな話してて……」

「あ、そういえばおまえに手紙きてるぞ」

「手紙? 誰から?」

「あそこ、机の上に置いてある」

 カーナは子供をノーブルに預け、机の上に置かれた手紙を見た。

 郵便業のないこの惑星に突如届いたその手紙は、ナンプからの招待状だった。

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