第三話 『ラブホに出発』


 私は、何となく夜ご飯を作る気が起きずにボーっとしていた。

 まあ、どの道慎二は今日も残業らしいしこれくらいの休憩は取っても問題無いでしょうし。


「ちょっと散歩でも行こうかな。」


 気分転換といえば散歩だ。

 別に、夏須さんのことだって今度慎二が休みを取れた時にでも相談すればいいし、家事の問題だって今後お金が貯まれば誰か人を雇ってやってもらっても良いし、慎二と分担したっていい。

 今はただ、テンションが低いだけだ。

 そう思い、私は散歩に行くことにした。



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「なんか、色々上手くいかないなぁ~。」


 まあ、人生が思い通りに行ったことなんて今までにもほとんど無いけどさ。

 夏須さんとのことだって、慎二とのことだって。

 こういう時は、一旦現実逃避するに限る。

 こうやって夜道をボーっと歩くのは嫌いじゃない。

 朝には朝、昼には昼、夜には夜の魅力がある。

 どことなく、空気の味も違う気がする。


プルルルル プルルルル


 私がボーっと散歩をしていると、いきなりスマホが鳴った。

 誰からかな、と思い画面を確認する。


「幸子か、こんな時間にどうかしたのかな?」


 不自然に思いつつも、私は電話に出る。


「は~い、どうしたの幸子?」

『美香、ビックニュースだよ。それも、レインボーブリッジ級の。』


 興奮と動揺の混じった声で幸子が話しかけてくる。


「もう少し落ち着きなよ。」

『いやいやいやいや、私には確信があるよ。美香がこの情報を聞いたら絶叫するっていう確信が。』


 意味深に幸子はそう言った。

 夏須さんと同様に、幸子にも早く本題に入ってもらいたい。

 まあ、幸子からは悪気なんてものは感じないからいんだけどさ。


「で、本題は?」

『驚かないでよ。』

「はいはい、驚かないから。」


 そう前置きをした後、幸子は言ってのけた。


『あなたの旦那さん、今ラブホに入って行ってたんだけど。』

「は??」


 私はその言葉の意味が理解できずに、言葉を失ってしまう。

 なんて言ったんだ幸子は?

 アンタノダンナサン、イマラブホニハイッテイッテタンダケド?


『お~い美香、大丈夫ぅ~』


 電話越しに幸子の気遣うような声が聞こえてくるが、そんなもの耳を素通りしてしまう。

 動揺しているのか?

 いや、確実に私は動揺している。

 それを受け止めた上で、冷静になるんだ私!


「それって、何処にあるラブホ?」

『えっとね、私今仕事で大峰山門市の里石駅に居るんだ。それで、美香の旦那さんを見かけたからつけたんだよ。』


 それは不自然ね。

 だって、里石駅って言ったら慎二の会社から我が家に向かう方向とは正反対なんだから。


『それで、どうせなら声を掛けておこうかなと思ったら、』

「思ったら?」

『なんか女性と手を繋いで歩いてたから、疑わしいと思って尾行したんだ。』


 まあ、ストーカーについては今どうこう言うのは野暮かな。


『そしたらビンゴで、今さっき丁度二人がラブホの中に入るところを目撃しちゃったんだよ!』


 なんてことだ。

 そんなの、浮気確定じゃんか。

 逆に、これで浮気じゃ無かったらなんだって言うんだ。


「はぁ~~。」


 本当に最近、ため息が増えてきた。

 結婚って大変だね、冗談抜きで。


「分かった。じゃあ、私も今からそっちに行くから待ってて。」

『ええっ、今から!?』

「うん。今さっきラブホに入ったって言うんなら、私が今から向かえば間に合うでしょ。」

『ま、まあね。』

「じゃあね。」

『ちょま、』


 私は強引に通話を終了した。

 今後のことを考えるとホントー---に憂鬱だけど、仕方ない。

 今はとりあえず件のラブホに行くか。

 結婚して早一か月でこんなことになるとは思っていなかったけど、悩んだって仕方ないもんね。


「やることが一杯だ!」


 私は、自分に活を入れる為に大声でそう叫んだ。



~あとがき~


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結婚してもう一か月、そろそろ旦那が浮気する頃かな。~そんなに浮気をするのなら、もう離婚しましょう。え、家のローンがあるから慰謝料を払えない? そんなこと知りません。~ Rough ranch @tekkinntawamanntaro

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