未知との出会い

 数時間後、セイコは布団の上に寝転がり、首から下げているペンダント型端末から映し出された長方形の映像を指でつついていた。


(結婚生活、不満……)


 表示されていた映像が一瞬で切り替わり、画像と文章が一面に表示されていく。


(ダメダメ、なに考えてるの! こういう生活になること分かってたじゃない!)


 セイコは両頬を軽く叩いて、眼前の画像に視線を向けなおす。


(ん、なんだろこの広告。『あなたの疲れた心を癒しましょう』? ははっ、その素敵な顔でもう癒されましたよ。……冗談)


 苦笑いを浮かべた後、目の前に指を持っていく。


(さぁ、仕事仕事――でも、ちょっと気になるよね。……うーん、ちょっとだけ調べよう!)


 顔立ちが整った男性と太文字が表示されている広告を指でつついていった。

 すると、すぐに映像がシンプルなデザインのものに切り替わる。


(ん、『心のマッサージ』? マッサージのお店かな? 直球で面白い名前だねー。えーっと、利用料金が……十分でおにぎり十個、七百五十ミリリットルの天然水十本分……キャスト指名料金が二十個か二十本分……体の触れ合いが十分で三十個か三十本分。……え、これ何のサービス? 高くない? それに、体の触れ合いって……なんか怪しい気配がする)


 セイコは硬い笑みを作りながら映像に指を近づけて、表示画面を切り替えていった。


 




 時間が経過し、空が黒色に染まった頃、セイコは二人分の料理をテーブルの上に並べていった。


 そして、セイコがいつものように食卓で待っていると、玄関が開く音が家の中に響き渡っていく。


 セイコは急ぎ足で玄関に向かい、ショウジに向かって優しい笑みを向けた。


「おかえり!」


 ショウジは少し硬い表情をしながら軽く手をあげる。


「ただいまっ」


「あのさ、まさかとは思うけど、今日も外で食べてきたり?」


 顔の前で手を合わせて片目をつむるショウジ。


「あ、うーん……ごめん! 先輩に誘われちゃってさ、食べてきちゃった!」


「そうなんだぁ。うん、先輩に誘われたら断りづらいもんね、仕方ないよ。それで、先輩に誘われたから夕ご飯作らなくていいって連絡は……?」


 ショウジは頭を撫でながら苦笑した。


「えっと……忘れちゃった」


(忘れちゃった!? ふざけないでよっ! なんでそんな簡単なこともできないの!?)


 セイコは明るい笑顔を浮かべながら、頬に添えるように手を合わせる。


「……うんっ! そういう時もあるよね! 仕方ない、仕方ない!」


「今度こそ気を付けるよ」


(その『今度』は何回目だよ!)


 それから、ショウジは何時ものように風呂場に向かい、セイコはテーブルの上に並べられた料理にラップをかけて、冷蔵庫にしまっていく。

 そして、テーブルの上に寂しく残った料理を口に運んでいく作業を少し速めにおこなっていった。

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