第2話
腐れ縁の延長線なのか、俺たちは昼飯を一緒に食べていた。今どき珍しく、うちの学校は屋上を開放している。
「今日もそれだけかい?」
「これで足りるんだよ」
購買で買った焼きそばパンの包みを剥がしていると、詩姫はいつものようにそう聞いてくる。お前はおかんか、と言いたいが、コイツのお弁当のおかずをちょいちょいもらっているので、下手なことは言えない。
「もっと食べないと大きくなれないよ?」
「お前はおかんか」
さすがに耐えきれなかった。人が気にしてることをコイツは……。
腹いせに、詩姫の手から箸を奪ってお弁当の卵焼きを一つつまんでやった。
「あ、一番上手くできたやつを!」
「うまいうまい。よくできてるよ」
「まったく……」
呆れたような顔をして、俺の手から箸を奪い返す。そしてなんの躊躇いもなく、その箸で卵焼きを一つ食べた。
「うん……上手くできてる」
「だろ? 俺が保証する」
「何様だい」
これがいつもの風景。コイツは俺の使った箸だろうと気にも留めないし、俺に嫌がらせされても、まるで子供のやったことだからと目を瞑る大人のような対応をしてくる。
「風が気持ちいいね」
「天気もいいしな」
「最高のお昼時さ」
ぱくり、と小さな一口でお弁当を食べていく。こういうところはあまり男っぽくないというか……。ふとした時に見れる、隙のような可愛さが好きだ。
「なぁ、ファンの子達に睨まれてんだけど」
「ん? ああ、いい子たちでしょ?」
「殺意向けてきてんのに?」
詩姫を見るときは羨望の眼差しだが、俺を見るときだけ親の仇を見てるような眼差ししてんだよなぁ……。
……まぁ、いい機会だ。そろそろ俺も、詩姫から詩姫立ちしなきゃいけない。
ファンの子達だけが理由ってわけじゃない。
コイツに恋人がいないのは、俺のせいかもしれないからだ。
俺が隣にいるせいで、奥手なやつが勘違いして告白を躊躇ってるかもしれない。もしかしたら、間違った噂すら流れてるかもしれない。
俺はコイツが幸せになってくれるなら、なんでもいい。それが俺じゃなかったとしてもだ。
「ん? お手洗いかい?」
おもむろに立ち上がった俺を見て、きょとんした顔で俺を見上げてくる。いつもとは違う、いつもなら俺を見下ろしてくる整った顔を見つめながら、俺は言葉を吐いた。
「今日でお前と食べるのやめるわ」
「ん? なんだいそれ、冗談でもそんなこと言わないでほしいな」
苦笑いしながら、俺の腕を掴もうとする。しかし俺はそれを意図的に振り払うと、焼きそばパンの包装ビニールをくしゃくしゃにしながら話した。
「俺もそろそろ彼女見つけようと思うわけ。んで、お前と一緒にいたら、そんなの見つけられないだろ?」
「か、彼女? 君が、
笑いたければ笑えばいい。俺なんぞに彼女なんて作れやしないと思ってるんだろうが、きっととびきりの彼女を見つけてみせる。
それで、コイツのことなんて忘れる。
「じゃあな、お前もさっさと良いやつ見つけろよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「しつこいんだよ」
少し口調に険を含むと、詩姫はひるんだ。今までに見たこともないような悲しそうな顔をしていたが、こうでもしないと腐れ縁なんて断ち切れやしない。
「俺に構う時間があるなら、もっと自分に時間を使えよ」
そう言い切ると、俺はさっさと屋上の出入り口に入っていく。ヒソヒソとファンの子達から声が聞こえたが、きっとチャンスタイムでも来て喜んでいることだろう。俺に感謝してほしいもんだ。
友達をやめるわけでもないし、最後に言った言葉はアイツを思ってのことだ。アイツもこれで、この腐れ縁とはオサラバできて清々しているだろう。
「……寂しいもんだな」
今更ながら、後悔が襲ってきた。俺みたいな平凡なやつが、あんな美少女と関係を持つのは奇跡ともいえる。そんな奇跡を自分から捨てたんだ。
けれど進まなきゃいけない。アイツも、進まないといけない。
いつまでも、幼馴染じゃいられない。
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