ヤンデレ僕っ娘よ、お幸せに。

黒崎

第1話

「おはよう、今日も可愛いね」

「どうも。そちらさんは今日もカッコいいな」

 朝から俺のことをバカにしてくるこの女……一見すると俺のことを微笑ましく見つめているこの女。

 完璧に俺のことを見下している。俺より背が高いからって、俺がチビだからってバカにしてくるこの女。


 俺はこの女に、ずっと恋をしている。


「今日も僕はカッコいいかい? よかった、ファンの子に失望されないで済むよ」

「よかったな」

 隣を歩くこの女……一人称が「僕」 だが気にしないでいい。最初こそみんな驚くが、その顔の良さと性格の良さ、スタイルの良さに頭の良さ。そのうえ、運動神経も良いときた。みんな、そっちに気を取られて一人称なんて気にしなくなる。

 この女の一人称が「僕」 なのは……コイツが、昔から男勝りだったから。なんて、あまり変わり映えのしない理由だ。

 小学生の頃から「俺」 だったのだが、今は(一応)丸くなって、「僕」 になっている。どこが丸くなっているかは知らないが。

「どうしたのかな? そんなに僕のことを見つめて」

「お前が俺を見てるんだろ」

「バレちゃった?」

 なんて軽口を叩きながら、俺とこの女……宴野詩姫えんのしきは、学校へ一緒に向かう。

 幼馴染で、なんてことはない、ただの腐れ縁。行く高校まで一緒になるとは、どこかで運命を感じるような……なんて言ったら、それこそこいつにバカにされる。

 小さい頃から一緒にいて、その頃から俺は好きだった。男勝りだろうがなんだろうが、俺には詩姫が可愛くてカッコよくてたまらなかった。

 とはいえ、コイツは文武両道の王子様。特徴といえばチビであることくらいしかない俺では、どう頑張っても釣り合いはしない。


 だからこの想いは墓場まで持っていく。コイツがどこの馬の骨とも知れん男と付き合おうが、何をしようが、詩姫が幸せならそれでいい。


 俺の想いは、一生伝わらない。伝えられない。けれど、それでいい。

 そう思っていたんだ。




 今日までは。





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