球根

北緒りお

球根

 そのときの手元には攪拌(かくはん)の結実と耐熱性に劣る四角がバネをのばし、私の役割であることを静かに主張していた。

「グリコーゲンができるまで、月の出番が終わってすぐででも続けて」

 朝日の中で紙片と共に埋没させるのは涙の砂が練り上げていくような衰弱する振幅を眺める心地になる。指先の記憶が忌避させ少しの豊満を選別して紋様のように泡立とうとシュロの繊維みたいに絡まり隆起していた。

 台風が近づこうとする手のひらに包んだ結晶は冷たく、淡い乳白色に波は立たず、時間と共に疲労が土を分け入り肺の奥で丸まると藍色の藁が鎮座する。

 この枯渇を止めるのに、もう傾く数が限られていた。らしくない冷たい雨が耳と踝(くるぶし)を見透かしていたが、曲線の密度は次を指していた。

 円柱に閉じこめた微塵の石灰がただよう源を分裂の媒介となるように波打たせる。その静けさが見えるように毛髪のような繊細さを模倣する。

 鉢の中に鼓動する点と線はオクターブに一つ足りない。胚が葡萄のように連奏され、レモン色の舵にしがみつき涼しい顔をしている。

「きっと雨の中に幕を開いて、昇華していけるでしょう」

 上気した感情と水温計の出会いを期待しているが、甲殻類が陰に隠れて様子をうかがっている。

「その薊(あざみ)の棘がもっと増えるだろうね」

 毛細管を失った手が見つめていた。

 答えは自明であったが、球体のストローを手にしないとわかりにくいだろうと考え、あえてぼやかした返事をした。

「照明によってもコントラストは変わるが、線の高さが標準的な方が良いと思うな」

 消えた茎の量が違うからなのか、試験管を目にした山猫みたいな顔をして聞いていたが、そういう物なのだろうと飲み込んでくれていた。

 クルミの殻が立てる音が部屋の中に響く。

 パルプは震え、メッシュ地になった門番は邪魔することもなく正弦波の斑を広げていた。時間こそかかってしまったが樹脂のくぼみをせかすこともできず、不定形で周期的な渦を点滴としたのだった。

 低くうなり声をあげる針に数字の到着と瞼をあけることを知らされる。

 霧の下に発熱した波を呼び、粉砕された黒を無傷の陶器に満たす。

 彼女は無色がいいといい、中断された断裂と怠惰なパラボラに注いで渡す。

 突然の提案であった

「透明は膨らむのに寄与していないし、沈殿と入れ替えるのは質量が消える熱が強い時がいい」

 雨の気配を鼻先に感じ、風が東か西に流れる影と、雲が軋(きし)む音を聞いた。

 陶器の破片をクルミ殻で研磨しながら左手を見ると、腕に塗り込んでいるブルーブラックのインクの香りが漂い、ナイフの到着を予感し悲観した。

 進捗は思わしくない。つま先に日の光が届きそうなのにも関わらず山はそびえ、瓦礫を掬(すく)い続けていても爪が気泡を生むだけであった。

 迷いの声を聞く。

「もし、粉末の2gと液体の10mlが並んでジャケットの内ポケットにいたらどうする?」

 ピアスをいじる癖がでているときは、正解を探しあぐねているときの姿であり、葉脈にメッキをかけたような華奢なそれに指先を持って行きながら、髪を耳にかける仕草を振り子のように目にしていた。

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球根 北緒りお @kitaorio

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