我が子を獣に食われてしまった母親が、その獣を討たんと山に籠るお話。
時代もの、と言っていいのか、少なくとも現代ではない社会が舞台の物語です。
鉄砲鍛冶の家に嫁いで子を生み、また自らも銃を持ち獣を狩る女性。
彼女が我が子の仇を打つ復讐譚、といえば確かにその通りであるものの、その目的意識が絶妙にずれているような感覚が最高でした。
何か因果を応報させるにしても、それが「命を取られたから取り返す」に収まらず、「食われたから食い返す」になっているところ。
また、その恨みや憎しみの根源が、「私ならもっと」という部分に根ざしていること。
彼女がその裡に抱えた欲望が、およそ叶うべきものではないが故の激しい憎悪。
これらの心情が、山狩りの詳細な描写を通じて、生々しくこちらに叩きつけられる事の気持ちよさがもう本当にたまりません。
紹介文にある「性癖:カニバリズム」の一文に対して、本当に忠実に描かれた作品だったと思います。
この迫力はとても伝えられる気がしませんので、是非とも作品本編で体感してみてください。