旅を続ける

『愛する妻と息子へ。

 俺は嘘つきだ。酷いパパですまない。

 必ず帰ってくる、俺は心配させまいと思い言った。

 心細く泣きそうな我が子を前に、本当のことが言えなかったんだ。

 許してくれとは言わない。

 ただこれだけは嘘じゃないと神に誓う。パパは家族を愛している。

 あの時食料店で一目惚れした君と結婚できてよかった。

 息子と出会わせてくれてありがとう。

 涙が止まらない 血も 会いたくて たまらない』



 声に出して読んだ。


「住所は都を北から出たところにある町だ」


 青年の声。

 

『ありがとう、行ってみるね』

「気を付けて」


 脚は白く、上にいくにつれ灰色の毛になっていく。

 体長一五〇センチの狼は大人しめの声で感謝を零す。


「あ、手紙銜えたままだと大変だろ。サイドバッグ使え」


 青年は軍用のサイドバッグを狼の胴体に巻いた。

 手紙をバッグに入れる。


『いいの? ありがとう』

「いいよ、もう使ってないしな……ついていこうか?」

『ううん、大丈夫。ボクだけで行けるよ、何かあっても対処できる』


 青年は、ふぅ、と息を吐き出す。


「そうか」


 狼は堂々と都を走り抜け、北を目指す。


「見ない間に大きくなったな、あの子は?」

「お嬢さんはどうしたんだ?」

「赤ずきんは?」

「凛々しい顔つきになったじゃないか。あれ、赤ずきんがいないけど?」


『赤ずきんはボクの中で生きてる、ボクと一緒に旅してるよ』


 都の人々に訊かれる度、狼は同じ答えを返した。


「目つきも変わったな、病気でもしたか?」

「綺麗な目になったねぇ」


 都の門を開け、外を眺めた。

 海のように青く澄んだ瞳に景色を映し、狼は再び大陸を駆け出した……。

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赤ずきんと狼クンのお話 Akikan(仮) @OBkan

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