第22話 現代の魔人

時は現代、ゴローが異世界へと転移した翌日。


「申し訳ありません所長、取り逃してしまいました…………」


そう申し開きしているのは研究所の警備隊長だ。


「いや、仕方ありません。そのような力を一般の人間が止められるはずありませんから」


この施設はES研究所と呼ばれ、その所長の名は真島東吾と言うがこれは偽名だ。人間の姿も偽りで200年前にゴローのいる異世界からこの現代に転移してきた魔人だ。

勇者との戦いで敗れ、逃走する際に使った転移が何らかの原因で正常に作動せずこの現代の日本に飛ばされてきた。

逆にゴローが異世界へと転移したということはこの2つの世界線が近いのだろう。


「ふふふ、そうですか消えたんですね…………」


警備隊長の不安をよそに終始にやけ顔の所長に困惑しながらも退室すると。


「やっと!やっと帰れる算段がついた!この時代にも素質のある者がいたのだ!そして私の血を元に作ったこの薬がそれを引き出した!」


真島はこの世界が完全に人間の手に落ち、味方となる魔族が1人もいないことに絶望し元の世界に帰る方法を模索していた。


「忌々しい人間が支配する世界など早く去りたいものだ、そのためにも新たなサンプルを探す必要があるな」


真島はリストに目をやりながらも歓喜の感情を抑えきれずにいる。ニヤニヤしながら鼻歌まで聞こえてきそうな笑みで。


「薬は完成と見ていいだろう、後はサンプルに片っ端からこの薬を投与し続ければ…………ふふふ、あーハッハッハ!」


真島は飲まずにいられないといった感じで酒を飲みながら妄想に耽る。


「くくく待っていろよ人間ども、戻った際にはこの世界の科学や技術も取り入れ魔族の世界へと変えてやる」


真島は高位の魔法使いではあったのだが現代ではその力を発揮できないでいた。原因は元の世界の3倍はある重力のせいだ。飛ぶこともできなければ攻撃魔法の類いも非常に弱々しい。200年経った今では慣れはしたが本来の力には程遠く、この世界の人間のほうが遥かに強い。

元の世界であればハイヒューマンと呼ばれる類いでゴローがそれにあたる。



場所は変わりゴローの村では。


「それじゃ1週間後に王都に行くというこで決定ね」


この日はシャルロットが一芝居うつための打ち合わせをゴローとしていた。


「その頃には羽根も出来上がるからね」


「ふふふ、楽しみだな。散々除け者にしてきたお兄様やお姉様がどんな顔をするのかしら」


「シャルロットが将来王位についてくれればここと交易できるんだけどね」


「でも、そうしたらゴローと離れ離れになるでしょ?」


「まあ、そうなるね」


「嫌だな………………」


シャルロットはゴローの側で甘えたいが、そうはさせまいとジャスミンがくっついて離れないでいる。ゴローも引き離そうとしたが爪をたてるので諦めた。


「ゴローお話終わり?遊ぼう!」


ゴローの腕に成長した胸を押し付けるジャスミン、ゴローの顔も緩みっぱなしだ。


「もう!ゴロー顔がだらしないわよ!私だってそれなりにあるんだから…………ブツブツ」


「お姉ちゃんもお話終わったなら帰れば?」


ジャスミンの発言をかわきりにまたもやバトルの開始だ。


「まだお話は終わってないわよー?これからは秘密のお話があるから子供は帰りなさい」


「むう!私はもう子供じゃないもん!」


「ほら、そうやってわがまま放題なのが子供の証拠」


「そう言って私がいなくなったらゴロー取ろうとするんでしょ!ダメなんだから!」


興奮したジャスミンがまたも爪を出す、それがゴローの皮膚に食い込む。


「痛たたたた!だから爪!爪がー!」


「ジャスミンはーなーれーてー!」


「やーだー!」


ワーワーギャーギャー!


昨日と同じ展開にゴローもうんざりしたので。


「転移!」


シュン!


「あーあ、ゴロー逃げちゃった。お姉ちゃんのせいだ!」


「ジャスミンが爪たててゴロー困らせるからでしょ!」


ゴゴゴゴゴゴ!


対峙する2人の間に火花が散って見えるようだ。


「やるかニャ?」


「いいの?私は魔法使いよ、消し炭になるわよ」


ガチャ


「はいはい、それくらいにしとかないとゴローさんが本気で怒るわよ」


そう言ってミントがお茶を持って入ってきた。


「もう、2人ともいい加減にしないとゴローさんいなくなっちゃうわよ」


「あう!それはやだー!」


「私も嫌よ…………」


「なら2人とも大人になりなさい」


「「はーい」」


「でも、ゴローさんどこ行っちゃったのかしらね」


シャルロットとジャスミンは大人しくソファーに座りお茶をすする。



そしてゴローは北の森に来ていた、魔族がどこまで撤退したのか確かめるため。


「いてて、今度ジャスミンの爪切らないとダメだな」


ゴローは北の森上空を飛びながらそんなことを考えていると亜人らしき集落をみつけた。


「お、こんなところにって…………戦ってる?」


急いで高度を下げ確認すると。


カキーン!ガン!


金属音が響き渡り亜人と人間が戦闘しているのが見えた。


「どう見ても人間のほうは冒険者だな、奴隷狩りしてんのか」


カキーン!


「抵抗は無駄だ!歯向かうなら死んでもらうぞ!女子供がいりゃ男なんかいらねえしな!」


「ふざけるな!お前らの言いなりにはならん!」


カーン!ズバっ!


冒険者の剣が亜人の男の肩口に振り下ろされそのまま斬られた。


「ぐあー!くそ!」


「ほら終わりだ!お前の娘も後で可愛がってやるから安して死んでいけ!」


「くそー!くそー!」


「あ、あれ?動けない、なんでだ」


「今だ!」


ズドっ!


亜人の男が剣を冒険者の喉元に突き刺した。


「ごぷ!な、なんで…………」


その様子を見た他の冒険者が声を上げる。


「ああ!コノヤロー!って……あ、あれ?動けない」


他の冒険者も体が動かせないらしくその場で棒立ちになっている。


「なんだ?しかしチャンスだ!みんなこの機を逃すな!」


ズドッ!ズバっ!


「ぐあー!」

「ぎゃあ!」

「ぐふ…………」


次々と亜人に倒されていく冒険者たちだが。


「お前ら!これを見ろ!」


1人の冒険者が女子供が集まっている場所から子供を引っ張り出し、首元に剣を突きつけている。


「な!卑怯な………………!」


「剣を捨てろ!抵抗するなら順番に殺していくか、か、か、か」


そこまで言うとその冒険者は大の字で固まったまま上空へと浮き上がり、その光景を見た亜人たちも動きを止めた。


「なんだ?浮いてるぞ…………」


「おい止まるな!冒険者はまだ残ってるだろ!」


上空からの声に我に返った亜人たちは残りの冒険者を倒していった。

そしてその亜人たちの中心に降り立つゴロー、その姿に呆気を取られ亜人たちが固まっていた。



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