第21話 お引越し

移住してきたシャルロットは早速ゴローの用意した家に入り色々やっているようだ。

お姫様ということで最初は鉄筋コンクリート製のビルを用意したが、そういう特別扱いは嫌だと言うことで木造2階建ての普通の家を選んだシャルロット。


家の中の設備を説明するゴロー、それを興味津々で聞いているシャルロット。


「まずはトイレは水洗だ、このレバーを下げると水が流れる」


「はあ…………水洗?」


「ここが風呂だ、シャルロットは魔法使えるから魔石は必要ないな、水は蛇口から出るが水魔法でもいい」


「はあ……………水が出るの?」


「ここはキッチンだ、コンロに魔石が仕込んであるからこのツマミで火力を調整して使ってくれ」


「はあ…………これ他の家にもあるの?」


「そうだよ、全部の家に同じ設備が最低限ついてる」


シャルロットはあまりの文化レベルの違いに戸惑っているようだ、風呂なんてのも本来貴族くらいしか使えないものが普通の庶民でも使えるようになっている。


「生活レベルが高すぎるわ、ゴローが作ったの?」


「ほとんどはね、あと冷蔵庫とか暖房器具とかは売ってるから」


「冷蔵庫?何それ」


「食べ物とかを冷やして保管する箱だね、日持ちがするから」


「はあ…………それもすごいわね…………」


「まあ、気になることがあったら言って」


「うん、ありがとうゴロー」


「じゃあね」


「あ!もう行っちゃうの?」


寂しそうな顔をしてゴローを見つめるシャルロット、そんな顔をされて「はい、さよなら」とも言えず。


「心配しないで、人間はシャルロットだけだけど村のみんなには知らせてあるから」


「違くて!もうちょっと一緒にいてよ」


シャルロットの気持ちが好意とは感じてはいるが、若くて綺麗な女性が自分に恋してるなど信じられないゴローは。


「あれ?違うの?食べ物の心配かな?ご飯も近くに食堂あるから」


「もうバカ!」


シャルロットにそう言われて家を追い出されてしまった。


「まさかね、一回りも年の離れたおっさんが夢見ちゃいけない…………」


ゴローもシャルロットと付き合えるのなら飛び跳ねて喜ぶところだが、女性にトラウマを抱えているため確かめることも怖い。


「はあ?キモいんですけど?」


そんなことを言われたらショックで寝込んでしまう。そんなわけで昔から女性とは距離を置くことにしている。

ゴローがトボトボと帰る姿を2階の窓から見つめるシャルロット。


「でもいいわ、ゴローと同じ村にいるんだものチャンスはいくらでもあるわ」


そんなシャルロットだったが、翌日そんな考えは甘かったと思い知ることとなる。



そして翌日になり、シャルロットはゴローのいるビルを訪れる。


「おはようシャルロット、よく眠れた?」


「うん、ベッドも布団も最高級品用意してくれたの?あんなの久しぶりよ」


「羽毛使ってるからね、あれもみんな使ってる物だから気にしないで」


「はあ…………もう驚かないわ」


ゴローが持ってきたお茶を飲みながらソファーに座っていると。


「ゴローさん、これ作ったので着て貰えると嬉しいです」


「うん、ありがとう大事に着させてもらうよ」


「ゴローさん、これ作ったので食べて下さい」


「いつもありがとう、お昼にいただくよ」


何人もの若くて綺麗な女性がひっきりなしにゴローを尋ねてくる様子にシャルロットは。


「ねえ、いつもこんななの?」


「うん、お礼なんかいらないって言ってるんだけどね」


シャルロットは呆れ顔で。


「いやいや、お礼じゃないと思うわよ?女性がわざわざ作った物を持って来てるんだから」


「いやあ、お礼以外何があると?」


「あなた本当に鈍感なのね、でも好都合だわ」


「好都合…………?」


「私はゴローのことが……」


ガチャ


シャルロットがそう言いかけた時に扉が開いた。


「ゴロー!」


そう言ってゴローに抱きつく女性にシャルロットは驚き。


「ちょ!ちょっと!あなた誰!」


よく見ると細身の美少女という言葉がピタっと当てはまるような女の子だ。


「あ!あなた見たことある、確かどこかのお姫様」


「え?私に会ったことあるの?」


シャルロットは思い出そうとしても思い出せずにいると。


「前にも会ったことあったでしょ、ジャスミンだよ」


「ええ!うそー!」


驚くのも無理はない、ちょっと前まで女児だと思っていたのが目の前にいるのは誰が見ても美少女と思うような15歳くらいの女の子。

その後から母親のミントも入ってきた。


「あらあら、ジャスミンもそういうの止めなさい。ゴローさん困ってるでしょ」


ジャスミンが成長したのは身長だけではない、当然女性の部分も成長している。そして抱きつけば当然その部分を嫌でも感じてしまう。


「えー!ゴローは嫌なの?」


「え?嫌じゃないけどね…………あはは」


ゴローの鼻の下を伸ばしだらしない顔つきをしている。


「ほら!嫌じゃないって!ゴロー…………ニャンニャン」


成長しても中身はまだ子供のようだ。


「獣人だから成長早いのは知ってるけど………………」


そんなシャルロットの疑問にミントが応える。


「猫族に限らず獣人は伴侶を見つけると急速に成長するんですよ、繁殖のためなんでしょうけど」


「は、は、は、繁殖って…………まさか」


ゴローが慌てて。


「ち!違うよ!手を出してないって!」


ジャスミンは抱きつきながらゴローの顔を舐めている。


「私もう子供産めるんだよゴロー、早く結婚しようよ」


爆弾発言にシャルロットも負けじと。


「ちょっとダメよ!私だって産めるわよ!ジャスミンじゃ若すぎるわ!」


「むう!お姉ちゃんあの時の!ゴロー取っちゃダメ!」


「と、とにかく離れなさい!」


「やーだー!」


ジャスミンの腕を掴んで引き離そうとするシャルロット。ジャスミンも離されまいと力を込めるがその際に爪が出たのか、ゴローの皮膚に食い込む。


「痛たたた!ちょっと痛いって!」


ギャーギャーワーワー!


「あらあら、ゴローさんも罪なお人ね」


お茶を飲みながらソファーに座るミント。


ギャーギャーワーワー!


ジャスミンもシャルロットもこの日を境にお互いをライバルという認識をしたのだった。








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