第17話 パワーバランス

「正直俺は人間が嫌いだ」


 ゴローが真面目な顔でシャルロットに話す。


「中々衝撃的なことを言うのね、何故?」


「奴隷制度なんてものは外道のやることだ、人の自由を奪い成長を妨げるなんて許せん」


「それは私も思うわ、特に女性なんて酷い扱いだもの」


「そうなのか、お姫様なのに国の方針に逆らっていいの?」


「奴隷なんて買うのはほとんどが男よ、女性は同情的な気持ちの人が多いわ」


「なるほどね…………」


「私に力があればね…………」


 しばしの沈黙の後ゴローは。


「まあ、今は魔王軍のことが先か、なので俺は今回はシャルロットのために働くが今後はどうなるかはわからないというのだけは知っておいてくれ」


「うん、わかったわ」


「それとこの村のことも口外しないこと、転移で来たから場所はわからないだろうけど存在を知られるのは良くない」


「それも安心して、絶対口外することはしないわ」


「それでどうすればいい?」


「まだ陥落していないけど陥落寸前の2つの街を魔王軍の手から守ってほしいの」


「わかった」


「随分簡単に言うのね、でもゴローならそうかもね」


「まだ魔法を混ぜて実戦してないからちょうどいいかな」


「私も一緒に行きたいけど無理よね?」


「そうだね、調整もよくわからないから巻き込む可能性あるし今回はお留守番してて」


「うん、わかったお願いね、本当にお礼はいらないの?」


「いらないよ、その都度人間と魔族の情報をくれれば」


「その………………私はいいからね?」


 シャルロットはモジモジしながら流し目でゴローを見つめるが当の本人は全く理解していなかった。


「とりあえず明後日学校休みだから行ってくるよ、2つ目はその3日後かな」


「もう!ゴローのバカ!」


「え?なんで?」


“もうなんなのこの鈍感!もっと積極的にならないとわからないのかしら?はあ、魔王軍が攻めて来て国の一大事だっていうのに私ったら…………もっと肌を露出した服装のほうがいいのかしら ”




 2日後、王都に近い街ニアの上空にゴローの姿があった。現在街に人間たちはいない、シャルロットに頼んで王都まで撤退してもらっていた。ゴローの存在を知られたくないためだ。


「いっぱいいるね魔王軍が、指揮してるのはまたデーモンかな?燻り出すか」


 ゴローは上空から街へ手をかざすと。


「サイコ・プレッシャー」


 こうやって言葉に出すと明確なイメージが湧くのでやっているだけで、格好つけようとか思っているわけではない。


「さて、これで出てきてもらうと助かるんだけど」


 すると建物からワラワラと出てくるのが見えた。そしてデーモンらしき者も飛んできたがゴローの姿を発見するまでには至っていない、まさか人間が空を飛んでるとは思っていないので下ばかり見ている。


「あれが指揮官かな?なんの恨みもないけど散々人間を殺してきたんだろうし仕方ないよね」


 ゴローは銃をイメージして人差し指をデーモンに向けて。


「スナイプ」


 土魔法で作った銃弾を火を混ぜ圧縮したイメージで解き放つ。


 パシュッ!


 乾いた音がしたとほぼ同時にデーモンが力なく落下していく。頭を撃ち抜かれたデーモンの頭部は半分ほどしかなく、その威力は想像以上だった。


「結構威力あるな、デーモンって防御力も高かったはずだけど油断してたからかな?」


 ゴローが街中へと降下すると魔物たちは驚きながらも取り囲み攻撃してきた。


「ウォータープレッシャー」


 今度は近接用に考えた技だ、イメージはテレビでやっていた水で何でも切る機械。水だけでなく水に研磨剤などを含ませると威力が増すので、水魔法で水を発生させそこに土魔法で作った土の粒子を混ぜ圧縮させて解き放つ。


 ピシュン!ピシュン!


 糸のような物を解き放つ度に近くの者も物もスパスパと斬れていく。水なので射程範囲は短い、近接戦闘用だ。


「五本指でやったら南斗水○拳だな、ヒャウ!とか言ったほうがいいのかな?」


 縦に横にと体を斬られ倒れていく魔族と魔物、指揮官も不在で見たこともない攻撃をしてくる人間に現場は大混乱に陥っていた。


 ギャーギャー!ギャーギャー!


 言葉なのか悲鳴なのかわからないが、あちらこちらから叫び声が聞こえてくる。


「フーーー!ヒャウ!ヒャウ!」


 ゴローは完全にレ○気取りで斬りまくっている。


 完全に戦意喪失した魔王軍は街から逃げ出し始めた、魔法攻撃を仕掛けてくる魔族もいたが全てゴローの障壁に弾かれ打つ手なしと判断したようだ。


「殲滅までいかなくても数は減らしておかないとまた攻めてくるからな」


 平原へと逃げ出した魔王軍をゴローは上空から追いかける。


「サイコ・クラッシュ!」


 ゴローが手を振り下ろすと逃げ出した魔王軍の後方にいた魔物や魔族が見えない力で押し潰された。


「これの射程範囲はこんなもんか、まあ半分潰せば当分攻めて来れないだろ」


 通常戦闘では戦力の半分が削られると全滅と判断される、それ以上であれば壊滅などと言う言葉もあるがそこまではしなかった。魔族があまり減っても困るし人間が減っても困る、要はパワーバランスの問題だ。


「こんなもんか、あれ?これの仕業を誰にするつもりなんだシャルロットは?まあ、いっか」


 約3時間ほどで戦闘?を終えたゴローは転移で村へと帰還した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る