第16話 要塞

 その日、ギルドの片隅でアレックス率いるパーティーメンバーがテーブルを囲んで作戦会議をしていたが、神妙な面持ちの中1人シャルロットはにこやかにアレックスの話を聞いていた。

 シャルロットは3日後にゴローと会う約束をしていた、絶大な力を持つゴローを味方にしたことによる安心感とは別にゴローに会えるという感情のほうが強かったのだが、この時はまだ気づいていない。


「シャルロット?聞いているのか?」


 アレックスが場に合わないにこやかな顔のシャルロットを見て不思議そうな顔をしている。


「え?うん、聞いてるわよ」


「深刻な状況とは思えない顔してるが…………」


「そ、そう?そんなことないわよ魔王軍が攻めて来てるんだもの」


「まあ、わかってるならいいが…………」


 腑に落ちない顔をしているアレックスだがシャルロットの頭の中はゴローのことでいっぱいだ。ゴローの要望で一の村で話をすることになっており、ゴローの造った村にも興味津々だった。


“目いっぱいのオシャレしていこ!ゴロー気に入ってくれるといいな、可愛いって言ってくれるかな?なんで私こんなにゴローのこと気になるんだろ………… ”



 そして3日後の昼過ぎに学校帰りのゴローと待ち合わせをし再会する2人。シャルロットはわざわざこの日のために買った白のワンピース姿を披露すると。


「おお、シャルロットはやっぱり可愛いね」


「えへへ、そ、そう?こんなの普段着よ普段着」


 そうは言いつつもシャルロットは満面の笑みでゴローに応える。


「それじゃ行こうか」


「うん!お願いします」


 シャルロットはゴローの腕に絡みつくが。


「あの、別にくっつかなくても転移出来るから」


「え?そうなの?」


 パッと恥ずかしそうに離れるが残念そうな顔をするシャルロット。


「まあ、綺麗な子に腕組まれるなんて嬉しいけどね」


「じゃあ組んじゃお!」


 シャルロットがまた腕を組んで来た時に胸を押しつけるのでゴローは戸惑ったが。


「て、て、転移!」


 ひっくり返った声で転移するとあっという間に村の入り口付近に移動した2人だが、シャルロットはその村の様相に愕然とした。


「これが村?何この高い城壁は、王都より高いし何で出来てるの?」


 そこは村と言うには程遠い要塞のようであった。壁は一枚岩なのかと思わせるコンクリート製、鉄製の門に城壁の上には大砲のような物がズラリと並んでいる。


「ようこそ、一の村へ。人間が入るのは初めてかな?」


「はあ………………」


 シャルロットはゴローの腕をギュッと更に締めつけるので柔らかい物を更に感じ取ってしまう。


「あ、あのシャルロットさんそんなに強くすると………………その、あれが」


「え?なんのこと?」


 シャルロットが天然なのかわざとなのかはわからないが、ゴローはそれ以上のことは言わずにその余韻に酔いしれていた。


“ぐぬぬ!耐性のない俺にこれはきつい、が悪くない………………柔らかいんだなあ ”


 村の中に入るとそこは見たこともない街並みだった。鉄筋コンクリート造りのビルが軒を連ね、その周りにもこの時代にはない様相の家々が建ち並んでいた。


「何ここ?見たことのない建物ばかり」


「まあ、とりあえず俺の住まいに行こうか。村を見て回るのは後でね」


「そ、そうね、本当に亜人ばかりなのね」


 亜人は人間がいると警戒するが話は通していたので特に混乱することはなくすれ違うたびに挨拶をしてくる。言うまでもなくゴローに対してだが。

 事務所のような場所へ入るとミントとジャスミンが出迎えてくれた。


「おかえりなさいゴローさん」


「おかえりゴロー!」


「この人が例のお姫様だからお茶出してくれる?」


 そう言うとミントが奥へお茶を取りに向かいゴローとシャルロットは対面でソファーに座り、すかさずジャスミンがゴローの隣に座り腕を絡ませる。

 先程までシャルロットがゴローと腕を組んでいたのでジャスミンは対抗心を燃やしたみたいだ。


「ジャスミン、このお姉ちゃんとお話があるから別の部屋に行っててくれる?」


「ゴローは私のだもん!お姉ちゃんに取られたくない!」


 小さいながらも嫉妬していたようだがゴローに女心はわからない、どっちも子供という認識でしかなかった。


「いや、そういう話じゃないからお願い」


「うう、わかったあ。お姉ちゃんゴロー取らないでよ」


 シャルロットも苦笑いをしながら。


「ごめんね、取ったりしないから安心して」


 拗ねた顔をして部屋を出ると同時にミントがお茶を持って来てくれた。ミントもお茶を置くとそのまま部屋を出て2人きりになり本題に入る。


「あんな小さな子と結婚するの?モテモテね」


「そんなわけないでしょ、子供の言うことだから」


「子供と思っててもすぐに大きくなるわよ獣人は」


「そうなの?まあ俺から見たらシャルロットだって子供だからな」


「え!私は子供じゃないわよ!大人よ大人!」


「ま、まあ、その話は後でね…………なんでそんなムキになるの」


 現代で女性に見向きもされなかったゴローに女性の好意を感じ取ることは出来なかった。昔合コンで、恋人は?と聞かれて右手と答えたら誰一人として話かけて来なかった辛い過去があるゴロー、それ以来女性が自分に好意を向けることはないと決めつけていた。


「そうね、本題は魔王軍のことだしね」


 シャルロットの顔つきが変わりゴローに話し始める。

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