第15話 バルカン王国の王女

 この日も学校へ通うゴローだがハッキリ言ってもう通う必要はなかった。あとはレベルを上げていけば魔力も上がっていくし、実技の授業で本領発揮してしまうと目立つことこの上ない。

 しかし、卒業をしているのとしていないとではギルドでの扱いも変わるらしいので卒業までは我慢して通うことにした。冒険者になるわけでもないのでそれも必要ないのだが今後何の役に立つかわからないし取っておいて損はないだろう。


 一方冒険者ギルドには懐かしい顔ぶれがいた、アレックスをリーダーとするAランクパーティーの面々だ。先日ゴローを見かけたのはこの中の1人シャルロットだがゴローのことをメンバーには話していない。


“あれから追いかけたらもう姿を消していたし、あれが本当にゴローだとしたら転移したに違いないわ ”


 あれからシャルロットは連日暇を見ては街中へ繰り出しゴローの姿を追っていた。ゴローの本当の力を知っているのはシャルロットのみだが、あの魔王軍を食い止めたのはゴローであろうことは1部の人間には知れ渡っている。そのゴローが力を隠そうとしている節があるのは明白なのでシャルロットは話すことをやめた。


 魔王軍の進撃は日々勢いを増しバルカン王国は各地で苦戦を強いられている。アレックスらも連日魔王軍との戦闘に明け暮れていたが王都に来た目的は王都防衛のためである。他の街が陥落するのも時間の問題で王国は存亡の危機に瀕していたが、ゴローはそういう情報は全く知らずに呑気に学校通いを続けている。


 シャルロットはギルドで五郎という名を調べたいのだがそう言った情報を漏らすようなことはギルドはしない、信用問題になるからだ。なので自分で探すしかないが、その行動がついに身を結ぶ。


「ああ!五郎!間違いないわ!」


 丁度学校から出てくるところをゴローはシャルロットと鉢合わせになった。


「げ!なんでこんなところに!」


 ゴローは驚いて逃げようとするがシャルロットは必死に訴えかける。


「お願い待って!五郎お願い!」


 女性に免疫のないゴローは綺麗な女性の必死の訴えを無碍にすることは出来なかった。


「あの、人違いでは?」


 今更しらを切るゴローだが。


「じゃあなんで逃げるのよ」


 もっもとな話だ、逃げた時点で本人だと言ってるようなもんだ。


「あの、死んだことになってるから困るんだけど」


「平気よ、周りに話すことはしないわ」


「アレックス達もいるの?」


「うん、いるけどアレックス達にも言わない」


「そうなんだ、俺もずっとここにいるわけじゃないからバレてもいいんだけど学校終わるまでは黙っててほしいな」


「学校?魔法の?あれだけの力があるのに今更魔法覚えるの?」


「魔法を混ぜることによって更に戦闘の幅が広がったからね」


「更に強くなったってこと?」


「まあ、そうなるかな?」


 シャルロットは少し沈黙してから意を決したように話し出す。


「ねえ、その力を貸してほしいの」


「へ?何に?」


「あなた今この国がどんな状況下にいるか知ってる?」


「ごめん、全然知らない」


 シャルロットはゴローに今の状況を簡潔に説明した。


「魔王軍がそんなところまで来てるんだ」


「そうなの、だからお願い」


「この前の街の時も最後まで残ろうとしてたし、シャルロットは何でそんなに戦おうとするの?」


「そ、それは………………」


 シャルロットは押し黙ってしまうが。


「言えない事情があるなら話さなくてもいいよ、ただそれで人に信用しろと言われても出来ないのはわかるよね?」


「その通りよ、話すわ」


 精悍な顔つきになったシャルロット。


「私はこのバルカン王国の第5王女なの」


「えー!お姫様?」


 ゴローが驚くのも無理はない、一国の王女がなんで冒険者なんて危ないことをしているのか?


「これは秘密にしてほしいの」


「それは俺も同じだからね、なるほどねだからあんなに必死になってたわけか」


 シャルロットはそれから自分の身の上話を語り出す。王女と言っても政治に関われるほどの人脈もないし政略結婚のための存在でしかないこと。そんな自分の存在を是としないこと、認めてもらいたいこと、自分のため国のために自分に出来ることを探していたら冒険者になっていたこと。


「ふむふむ、お姫様なんてニート生活出来るし羨ましいけどなあ」


「ニート?私は生かされるだけの人生なんて嫌よ」


“偉いなあ、俺だったらそんな境遇に甘えて食っちゃ寝してるだろうな ”


「協力してくれるなら報奨金も出すわ、そんなには出せないかもだけど………………」


「報奨金かあ、お金はあんまり必要ないんだよな」


「あの…………私の体を好きにしてもいいわ、結婚も」


「え?そこまで………………」


 正直心が揺れた、こんな若く綺麗な女性を好きに出来るなんて、しかも現代で出来なかった結婚まで出来るしかもお姫様と。

 取り引き、ビジネスの考えならそれもありだろう、しかしそれをすることに抵抗はあった。


“こんな好条件を逃す手はないけどこの力を私利私欲のために使うなんて奴隷を買ってるやつらと同じになるのでは? ”


 ゴローは自分の中にある義に逆らうことはしたくなかった、そして。


「いいよ、そこまでの心意気を見せられて嫌な思いはさせたくない」


「え?どういうこと?」


「お金も結婚もいらない、その代わり情報をもらう」


「情報?」


「この世界のこと」


「この世界って…………本当に不思議な人ねあなたって」


 シャルロットはこの頃からだったのだろう、ゴローの魅力に惹かれ始めたのは。

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