第10話 一の村

 王都の奴隷商の屋敷から忽然と、その主と奴隷全員が消えるという事件の話が街を駆け巡っていた。

 その異様さもあり騎士団まで出張ってくるが、何の手がかりも得られず困り果てているようだ。

 第5騎士団長キースは総動員して目撃者情報を集めてはいるが何一つ手がかりというものはなかった。


「血痕の1つもない、足跡すらないとはどういうことだ」


 これはもちろんゴローの仕業なのだが手口は簡単だ。

 まずゴローは1度この屋敷を訪れている、奴隷を買った場所は違うが奴隷について相談があるといって訪れている。

 そこに転移ポイントを設定し、事件の夜に転移してきたのだ。主をサイコキネシスで拘束するとそのまま地下牢へとおもむき牢を解放する。残念だが牢番の者には死んでいただいた、一瞬で握り潰したので死んだことさえ気づいていないかもしれない。


「それじゃ俺の周りに集まってくれ、出来るだけ近くに」


 ギューギュー!


「ちょ!どこ触ってるの!ダメ!あー!」


 嫌がっているフリだ。奴隷のほとんどは女性であり弾力のあるものがボヨンボヨンゴローの体に当たりまくっている。調子に乗った女性にあちこち触られて満更でもない、素人童貞には刺激が強すぎた。


「驚かないでね!転移!」


 バシュ!


 30人の転移など初めてだが成功した。失敗した場合は何度か繰り返す予定だったが、異空間に閉じ込められる者がいたかもと後で気づいてゾッとした。


 そうして新天地である開拓村へと転移してくると。


 はあ?どこここ?いつの間に?

 何が起こったの?


 色々な声が聞こえてきたが当たり前だ。村の名前も安易だが最初ということで一の村と名付けた。


「見ての通り俺は大魔道士だ空も飛べるしドラゴンも倒せる、だからこの村で過ごす分には安心してくれ」


 ザワザワザワザワ


 まだ今の状況が飲み込めないのか動き出そうとはしないが、その中の1人が。


「あ、あの、過ごすってここに住んでいいんですか?」


「もちろん!そのために作ったんだから、あと帰る場所がある者がいたら送るから言ってくれ!」


 大きな家を10戸ほど作っておいたので全員収容出来るし食料も確保してある。服などもサイズを気にしなければ行き渡るはずだ。


“ 女性ばかりなのは計算違いだったな、今度からは女性物を多めに買いたいけど俺だけだと買いづらいんだよなあ”


 夜も遅いので歓迎会は明日にして、とりあえず着替えてもらい部屋割りを決めてこの日は休んでもらった。


 翌日になり昼前に全員集まってもらう。


「えーっと、とりあえずここの責任者のゴローといいます、皆さん行く場所がないならここを使って下さい。」


 ザワザワザワザワ


「いきなりのことで戸惑うのは当然です、当分の食料もあるのでゆっくり体を休めて下さい」


「あのー…………」


「はい、どうぞ!」


「盗賊じゃないんですか?」


「え?盗賊?」


「違うんですか?」


「見ての通り自分とあそこにいる親子の3人だけですよ、盗賊じゃありません」


「じゃあ何故私たちを?」


「奴隷制度をなくそうとしてるからですかね?いずれこの世からなくしますよ」


「全てなくす…………?」


 ザワザワザワザワザワザワ


「ここから去っても構いませんし住んでも構いません、あなた達の自由です」


「自由…………?」


「ええ、仕事も好きなことをして下さい、ニートは困りますが無理強いはしません」


「それじゃお願いします」


 全員がここに住むことに決まり一気に賑やかになった。

 これを違う街でも同じことをして亜人の街を作る予定だ、現代知識も利用して人間の文明よりも1段階上の街を作り、人間に対抗するだけの力をつけさせる。


 この時にこうも思っていた。

 亜人の国を作り、魔族、人族に続く第3勢力として世界に認知させる。三国志みたいなむのだ。

 亜人の国に力があれば魔族も人族も手を出しづらい存在になるのは明白、滅ぼすにしてもその間に攻められては2正面を相手にしないといけなくなる。なら同盟となれば亜人の国はどちらかの勢力の庇護下に入るわけだ。何れにせよ今のままではジリ貧なのは確実なわけで、そのために出来ることはしておきたいというのがゴローの考えだった。


“ そして俺は今度こそ遠慮なくスローライフを送らせてもらう!今のまま全てを見捨ててスローライフも出来るけど折角もらった超能力だ、どこまで行けるか試してみたい!”


 魔族の味方をしてもよかったし、人族の味方をしてもよかったはずなのに何故亜人を選んだかというのは同じく理不尽に拉致され酷いことをされた境遇の仲というのが大きい。


“人間どもめ、よくも俺の体を好き勝手にいじくりまわしがって覚悟しろ!”


 完全な八つ当たりだがゴローは固く決意した。

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