第8話 奴隷

 奴隷商店の中へ案内されるとセリの会場らしく20人ほどの人間がその場にいた。


「それではセリを開始させていただきます、まずは猫族の娘から」


 1段高い壇上に、鎖に繋がれた猫耳の小さな女の子が引き出される。見た目は普通の中学生くらいの女の子だ。


「こちらは10万バルトから」


 あちこちから金額を叫ぶ声が聞こえてきた。


“ はあ!気分が悪い!あの子もどこかから連れ去られて来たんだろ、あの虚ろな絶望の目、見てられない”


 ゴローは自分と重ねていた、突然拉致され監禁され、拷問に近いことをやらされ自由を奪われた境遇を。


「はい!ではこちらの商品はそちらのかたに60万バルトで落札です」


“ あの子は買われたあと何をされるんだ?メイドとかならまだいいけど、やっぱり夜の相手もさせられるんだろうか”


 イライライライラ


 ゴローは暴れたい衝動に駆られながらもセリを見守り続ける。

 エルフやダークエルフもいたが人間はいなかった。


“ 俺は力があったから逃げられたがそれがない者は受け入れるしかない………………でもこの力を使えば救うことは出来る”


 しかし、そうはしなかった。目立ちたくないというのもあったが救ったあとどうする?行く宛がないなら放っておくわけにもいかない、かと言って1人2人救ったところでどうなる?街にもいられないし匿う場所もなく追われる身になるだけだ。買うにしても金がかかりすぎるし奴隷商が儲かるだけ、売れれば更にどこかからさらってくるだろう。


“ とにかく奴隷というものを知る必要があるな”


「それではこちらは最後になります!」


 壇上に上がったのは親子だった。母親は30そこそこ、子供は10くらいだろうか?猫族は小さいのかよくわからなかった。


「こちらはバラ売りも可能でございます!年増も子供も楽しみたいという方にはお買い得かと思います!こちらは50万バルトから!」


“ ブチ切れそうだ!よし買おう!今はせめてあの親子だけでも救ってやりたい!”


「100万!」


 いきなり倍額を提示したため他から声が上がることはなかった。


「はい!では100万バルトで落札でございます!ありがとうございます!」


 別室へ通されると先程の親子もその場にいた。2人とも怯えているようでカタカタと震えていた。


“ あら?俺ってそんなに怖く見えるかな?ちょっとショック”


「ではこちらの商品となりますのでお支払いをお願い致します、鎖はオプションとなりますが?」


「はい、金貨1枚ね、鎖なんていらない」


「かしこまりました、お買い上げありがとうございました」


 その場にいたくなかったので足早に出てそのまま服屋に向かう。それなりの服を買い宿屋へと直行し、話を聞くためにも広めの部屋1つだけ取る。手を出すつもりは毛頭ない。


「ふう、疲れた。あ、ごめんねベットが2つしかないから2人で1つのベット使って」


「あ、いえ、………………」


“ まあそりゃそうだよね、訳のわからない男と同じ部屋に泊まったら何をされるのかって警戒するわ”


「とりあえず名前を聞かせてくれる?」


「あ、はい、私はミントと言います、この子はジャスミンと言います。ご主人様これからよろしくお願い致します」


「ああ、ご主人様ってやめて、ゴローでいいから」


「え、それではゴロー様とお呼びします」


「うーん、様も嫌だなぁ、せめてゴローさんで呼んでくれない?」


「そうですか?失礼じゃありませんか?」


「最初に言っておくと、奴隷として扱わないから安心して。そうだなぁ………………ミントさんの旦那ってことにしようか?」


「え!そんな獣人と結婚した方など聞いたこともありませんよ」


「え?そうなの?なんで?」


「なんでと言われましても…………」


「ごめんね、遠くの村から来たからよく知らないんだよね、色々聞かせて」


 ミントの話を聞くと、やはり無理矢理連れてこられたらしい。集落を襲撃され男は皆殺し、女、子供はここに連れ去られ地下牢に閉じ込められていたそうだ。

 エルフや獣人は亜人と呼ばれ、人間による狩りが絶えないのだという。

 亜人と結婚なども有り得ない話で、まず役所が受け付けない。それだけ差別が激しいということはわかった。


「はあ、思ってたより酷い世界だね。」


“ 同じ境遇だったから痛いほどわかるな、なんとかしたいな………………”


「とにかくご飯だね!お腹空いたでしょ?」


「あ、いえ、私達のことは気にせずご主…………ゴローさんだけでも」


「あ、そうか外だと周りの目が気になるよね。ちょっと待ってて買ってくるから」


 そのまま荷物も置いたまま部屋を出ていくゴロー。


「え?あの、ゴローさん………………行っちゃった、変わった方ね」


「お母さんあの人全然怖くないね」


 ジャスミンがミントに話しかける


「そうね、こっちの事をよく知らないみたいだけど悪い人には見えないわね。荷物置いたまま私たち残していくとか」


「ご飯食べれるのかな?」


「あまり期待しないほうがいいわよ、後でガッカリするから」


「そうかあ…………」


 しばらくするとデカいお盆に大量の料理を乗せてゴローが部屋に入って来た。


「お待たせ〜、ちょっと時間かかったかな」


 大量の料理に目を輝かせる親子を見てゴローは。


「さあ、食べて食べて、お酒もあるよ」


 しかし親子は手をつけない、そういう教育はされていた。


「私たちは残ったものをいただきますのでゴローさんの食事が終わった後で」


「えー!一緒に食べた方が美味しいよ、いいから一緒に食べよう、ほらお酒も注ぐから」


「あ!あのそんなことをされては!私が注ぎます!」


「ジャスミンちゃんも食べて食べて、お腹空いたでしょ?遠慮しないで」


 ジャスミンはミントの顔を見上げながら。


「お母さん食べていいって言ってるよ」


 ミントも困った顔をしていたのでゴローは。


「はい!もう食べよ!いただきます!」


 両手を合わせて食べ始めるゴロー、ジャスミンも見よう見まねで両手を合わせて食べ始めた。ジャスミンもそれに続けて食べ始める、やはり空腹には勝てない。

 ニコニコしながら食べる親子を見ながらゴローは感慨にふける。


“ 結婚してたらこういう食卓だったのかなあ、こういうの憧れてたなぁ”


「美味しいねえお母さん」


「そうね、ありがとうございますゴローさん、こんなまともな食事はいつぶりですか」


「これからは毎日食べれるからね」


 ジャスミンが初めてゴローに向けて笑顔を見せてくれた。

 ゴローはその時に決心した、人間と戦うことを。


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