第6話 魔王軍の襲来
ギルドの中庭の中央で五郎とアレックスが剣を構え対峙している。
「そんなでかい剣を使いこなせるのか?」
五郎は全ての剣を持ってみて試すと、胴回りほどの太さの大剣が1番しっくりきたらしい。
ヒュンヒュン!
五郎が軽々とレイピアでも振るかのように振り回す姿を見てアレックスは唾を飲み込む。
“あの大剣を軽々と?あの細い体からは想像もできないが、これはビルドさんが気にかける理由がわかるな ”
「うん、これならまだマシかな」
ビルドが
「じゃあアレックス、最初は五郎の剣を受けてくれ」
「ビルドさんの言った通り五郎のほうからかかってこい」
「わかった」
“ これは勝つ必要ないし負けないとな、でも痛いの嫌だしどうしよ、まずは軽く、軽くね”
ダッ!
五郎は軽く踏み込み軽く振り下ろす。
カーン!
アレックスが剣で受け止めるが。
「ぐお!なんで重い剣だ!ではこちらからも行くぞ!」
その矢先。
「大変です!」
ギルドの建物から女性が飛び出してきて声を上げる、かなり慌てているようだ。
「どうした?」
「見張りからの報告によると、土煙がこちらに向かっているとのことです、恐らく魔物の群れかと」
「なに!魔物の群れ?」
「詳細はまだわかりませんが、相当数いるようです」
「わかった!手合わせは中止だ!アレックスも五郎もギルドに集合してくれ!」
大変なことになった、魔物と戦ったこともないのに群れが相手とは。いざとなれば五郎は空も飛べるし転移もできるので慌てることではないのだが。
“ うーん、街の人たちを残して自分だけ逃げるわけにもいかないしなあ、かと言って全力出して戦ったら正体バレちゃうしどうしよ”
ギルド内で待機していると続々と冒険者で満たされていく。
ビルドが叫ぶ。
「現在こちらの街に向かって魔物の群れが迫っている、これを撃退してほしい!あと1つ注意くれ、デーモンが率いている可能性がある、その場合は直ちに撤退しこちらに知らせてくれ」
ザワザワザワザワ
デーモンだって?ヤバくないか?…………
俺たちの手に負えるはずが……
おい、逃げようぜ………………
あちこちからそんな声が聞こえてくる。
“ デーモン?魔族?魔王軍ってことなのかな?この世界の情勢も知らないからなあ”
「みんなも逃げたい気持はわかる!王都に知らせを走らせたがとても間に合うもんじゃない!だがここに住む住民の避難が終わるまで耐えてほしい!頼む!」
ザワザワザワザワ
アレックスのパーティーはそれを聞き外へ出ていった。早速撃退に向かったのか?他の冒険者たちも続々と外へ向かうが、いくつかのパーティーは反対方向へと向かっていた。
“ まあ死ぬとわかって立ち向かえって言われても嫌なもんは嫌だろうし仕方ないね、さて俺はどうしよう”
母親と思われる女性の手に引かれ走っていく子供、街の中は騒然としている。そのうち地響きとも取れる足音が聞こえてくる。それだけでも相当数いることがわかった。
“ あんな子供もデーモンは殺すんだろうな、立ち向かった冒険者も生きては帰れないだろう、アレックス達も死を覚悟してるんだろうか?それともAランクパーティーとはそれすらも撃退する力を持ってるのか?”
城壁へ登り外を見ると街道を埋め尽くす数の魔物が列を成してこちらに向かっている。ビルドが魔法使いたちに色々指示を出しているようだが、どう見ても対処出来るような人数はいない。
門の内側には近接系の職業と思われる冒険者が集まっているが、それもとても対処できる人数はいない。
五郎はしばらく考えた後に覚悟を決めた。
“ やっぱり自分だけ逃げれないよな、付き合いは短いけど街の人には世話になってるし、宿屋のおばちゃんにおまけのパンもらったりしたし”
ビルドの指示で魔法攻撃が始まったみたいだ。足音もすぐそこまで迫っている。
「アレックス、君はあの数をこなせるのか?」
五郎はアレックスに問いかけた。
「こなせるわけないだろ!ビビって逃げたいけど仕方ないだろ」
「あ、やっぱりそうなんだ」
五郎は城壁へ登りビルドの元へ。
「ビルドさん全員連れて避難して下さい」
「なに?そりゃ出来ればそうしたいさ、だが住民の避難も終わらないうちは出来ん!」
「俺がなんとかします、なんとか出来る力があります」
「なんだと?………………やはり力を隠してたのか」
「はい、それでも死ぬかも知れませんけどね」
「それなら俺も手伝うぞ!Eランク置いて逃げ出すなんて出来ん!」
「いえ、それなら避難する住民の避難誘導や護衛をして下さい、こちらは俺1人でなんとか時間を稼ぎます」
「1人で?………………それほどの力なのか?」
「試したことはないです、でも出来るってわかるんです、なので信じて下さい」
ビルドは考えた後に声を上げる。
「撤退!撤退しろ!撤退しつつ住民の誘導と護衛を頼む!」
冒険者たちは一瞬躊躇いはしたが、すぐに撤退し始めた。留まっていたら確実に死んでいたわけだしね。
「五郎………………すまん」
「いいんです、指示する人がいないとスムーズに避難が進まないですから」
「あ、それと俺のことは秘密にしておいて下さいね、目立ちたくないんです」
「お前目立ちたくないって………………変なやつだな」
「ハハハ、じゃあ行って下さい楽しかったですよ」
「生きて帰ってきたら美味い酒を浴びるほど奢るからな!」
そしてビルドはその場を去り。
「よーし!これで思う存分力を出せるぞー!」
「力って、あなたやっぱり何か隠してたのね」
ブヒー!プリっ
ビックリしてちょっと出てしまった。
良かった、身じゃなくガスだけだった。
「び、ビックリしたなもう、ってシャルロット?撤退って聞こえなかったの?」
「聞こえてるわよ、あなたこそなんでここにいるのよ」
「えーっと、なんでって、困ったな…………」
「私はここで少しでも時間を稼ぐわ」
「アレックス達は?」
「撤退したわよ、私だけ残ったの、残らないといけないの」
“ もう!邪魔だなあ!なんなのこの人、ちょっとカッコイイけどさ”
「あの、撤退したほうがいいよ?」
「あなたこそ撤退しなさいよ!」
その時、空を飛ぶ人間?が近寄ってきた。
「貴様らだけか?恐れを成して他は逃げたか」
「デ、デーモン………………」
シャルロットがそう呟いた。
「へえ、あれがデーモンか、角に黒い羽根にって見たまんまだな」
デーモンは続けて。
「まあいい、この街をいただいて次の攻撃の拠点にさせてもらうか」
五郎とシャルロット
「だから撤退しろって!」
「あなたが撤退しなさいよ!」
「なんで撤退しないんだよ!」
「私にはその義務があるのよ!」
デーモンは激怒して叫ぶ。
「貴様ら話を聞けないなら死ね!」
ゴオオオオオオ!
デーモンの放った炎が五郎とシャルロットを襲う。
「障壁!」
五郎が手をかざすと、見えない壁のような物に炎が衝突した。
シャルロットが驚いた顔で。
「え?あなた魔法を?しかもデーモンの魔法を防ぐって…………」
デーモンは困惑しながら。
「何!貴様、私の魔法をいとも簡単に…………これなら!」
今度は無数の火の玉が五郎とシャルロットを襲うが、見えない壁に阻まれ前方で爆発していた。
「キャーー!あ、あれ?」
爆発で目を閉じていたシャルロットが目を開けると五郎の姿がなかった。
デーモンは狼狽えながら。
「き、貴様空を飛べるのか!人間ではないのか!」
空中でデーモンと五郎は対峙していた。
「シャルロット!早く撤退しろ!」
「ちょ、ちょっと浮遊する魔法なんて知らないわよ…………あなた」
デーモンが五郎目掛けて爪を出して攻撃してくるが、見えない壁がそれを阻む。
ガキーン!
五郎の半径を2mほどに見えない壁が展開されているようだ。全ての攻撃はそこで止まっている。
「貴様……本当に何者だ、そんな魔法見たことも聞いたこともないぞ、人間どもの新しい魔法か?」
「魔法じゃないんだけどな、ところでこれを指揮してるのはお前なのか?」
「そうだが、すぐ死ぬお前が知っても仕方なかろう」
五郎はデーモンに向けて手をかざし、拳を握る。
「死ね!」
グシャっ!
デーモンの周りの空間が歪み、その姿が消え中心に肉の塊が現れる。
シャルロットはそれを見て黙ってしまった。
「さて、あとは魔物の大軍か、シャルロットどうにかしないとな…………」
“ もうこの街にはいられないし、死んだことにしよう”
五郎がシャルロットの傍に降り立つと。
「シャルロット、俺はこれから特別攻撃を敢行する、魔物が引いたらビルドさん達に街に戻るように伝えてくれ」
「え?特別攻撃って?死ぬ気なの?」
「仕方ないだろ?そうでもしないと、この数だぞ?」
「じゃあ私も手伝うわよ」
「いや、シャルロットがそこにいると俺の魔法に巻き込まれるから退避してくれ」
五郎は念力、いやテレキネシスでシャルロットを反対の門へと運ぶ。
「え?え?何?これもあなたなの?」
「じゃあな」
“ よし!これで思う存分力を試して死んだことにして、新天地で今度こそスローライフするぞ!”
スーッと魔物の群れの中心へと降り立つ五郎。
「よーし!出力最大!食らえ必殺!……………………名前は後で考えよう」
見えない壁が光だし、五郎を中心にその大きさを変えていく。その大きさは城壁を越え避難するビルドやシャルロット達にもその光が見えた。
ビルドが
「あの光は………………五郎か?」
シャルロットも
「五郎……………………」
ドーーーーン!
光が柱となって天まで届いたかと思うと、徐々にその輝きを失っていく。
ドーン!ビターン!ドンドンドンドンドン!
ボトボト!グシャ!ビチャ!
空高く放り投げられた魔物が次々と地面に叩きつけられていく、原型を留めている魔物は皆無だ。
そして、指揮官もいなくなりそれを見た魔物たちは撤退いった。
「なんとかなったかな、死んだことにしないといけないし逃げますかね」
遥か上空まで上昇しそのまま南へと向かう。
「今度は上手くやってスローライフだ!」
その後泣きながら五郎の亡骸を探すシャルロットのことなど知る由もない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます