第3話 ザランの街
ザランの街が見えて来た、乗せてくれた人の名前はラルさん。そのラルさんに服をいただき当座のお金もいただいてしまった。元々護衛はいたのだが、雇った冒険者は馬車ごと逃げていったらしく、ラルさんはギルドに報告すると憤慨していた。
ラルさんは小さいながらも商店をこの街で営んでいて、困ったことがあれば寄ってほしいと言ってくれた。本当にいい人だ。
「それでは本当に助かりました」
「これくらいお礼のうちに入りませんよ、またお会いしましょう」
別れてから五郎は冒険者ギルドへと向かった。例によって冒険者カードがないと街に入る度に金を取られるので早急に手に入れたい。
「街の中央にあるって言ってたな」
“ 服装はもらった服で違和感はないはず、とにかく目立たないように行動しないとね”
しばらく歩くと人の出入りの激しい建物が見えて来た。出入りする人間のほとんどが武装してるからそこがギルドに間違いない。
中へ入ると武骨な戦士に露出度の高い女性、三角帽子のいかにも魔法使いという人やらがひしめき合っていた。
五郎の風体は服装は旅人みたいな普段着にひょろ長の体、武器もなければ防具もない。とても冒険者とは思えない風体だが今は仕方ない。
受付の女性に声をかける。
「すいません、新規で冒険者カードを発行してもらいたいんですけど」
「はい、ではこちらに必要事項を記入の上提出して下さい」
“今気づいたけどこっちの世界の言葉がわかるのはなんでだろ?文字も読めるし書けるし、まあそれも後で考えよう ”
「えーと、歳は32で…………職業と住所か」
“住所は来たばかりだから無いで済むけど職業ねぇ………………スキル…………会社員だったけどこっちは剣士とかそういうのだろうな ”
散々悩んだ挙句無難に剣士と書いておいた。剣持ってないけど。
一通り記入し受付の女性に手渡す。
「すいません、これお願いします」
「はい、えーと剣士ですか、歳が32?」
“ん?そこで引っかかるとこ? ”
「32で初級職の剣士なんですか?」
「え?はい、そうですけど」
「今まで何をされていたのですか?」
「何をって言われてもな…………」
“早速怪しまれてるな、目立つなこれは、どうしよう………… ”
「事務の仕事をしていたんですけど、そこを辞めて資金も乏しいので冒険者になろうかと」
「32からではきついと思いますが、冒険者というのは危険と隣り合わせですので、申し訳ありませんがこちらで判断させてもらっています」
「はあ、俺では不適格だと?」
「正直言わせてもらいますと体力があるようには見えませんし、武器も防具も身につけてませんし」
「なんとかなりませんか?」
「試験を受けてもらってそこで合格の判定が出れば発行出来ます」
「おお!それでお願いします!」
「かしこまりました、えっと誰か試験官いたかしら」
受付の女性が奥へ向かい何やら武骨な男と話をしている。するとその男がこちらを向いてため息をつきながら女性と歩いてくる。
「あんたかい?32で冒険者始めようなんて無謀なこと言ってんのは」
男の名前はビルド、身の丈が190はあろう大柄な男だ。
「はい、試験の方お願いします」
「ふむ、事務方だったらしいがその話し方はダメだ、舐められちまうぞ」
「はあ、わかりました」
「本当に大丈夫か?まあ試験はやるけどよ、そんなんじゃすぐ死んじまうからな不合格だったら諦めな」
正直五郎が本気を出せばここら一帯を吹き飛ばすのは容易だろう。しかし、そんなことをすれば目立つ、かなり目立つ。穏便に済まさないといけない。
五郎はビルドの後についていき中庭へと到着すると。
「お前剣士なのに剣持ってないんだって?とりあえずそこにある剣を適当に使え」
樽の中にある剣を適当に手に取り、中庭中央へ行きビルドと対峙する。
「じゃあお前から攻撃してみろ、最初は俺からは攻撃しないから」
「はい、お願いします」
“しかし、剣ってこんな軽いのか?1番軽そうなの選んだとは言えおもちゃの剣みたいな重さだ ”
この違和感は後に判明するが、それはさておきどう勝負しようか迷っていた。どう攻撃すれば合格するのか、闇雲に斬りかかっていればいいのか。
“案ずるより産むが易しか、とにかく目一杯 斬りかかってみよ”
五郎はジャンプ斬りをしようとジャンプすると。
「あらーーーーー!」
とてつもないジャンプで試験官を飛び越えて建物の2階に激突した。
「ふご!」
激突したあとポトリと下に落ちカエルのように地面にのびている。
「な!なんだその力は?人間ワザじゃないぞ!」
“ な、なんだこれ?超能力使ってないぞ。なんで飛んだんだ?自然に発動したのか?”
「お、おい大丈夫か?盛大に自爆しやがって」
ヒョイ!
スっと立ち上がり試験官に剣を構えると。
「すいません、ちょっとツマづいただけです」
「ツマづいたってレベルじゃないが………………まあいいか」
ピョンピョンと軽く飛び確かめると。
“わかった、ここは、この星の重力は軽いんだ。地球の何分の一かはわからないけど なんで今頃気づくんだ”
「では改めてお願いします」
「ああ、まったく訳の分からんやつだ」
今度はビルド目がけて踏み込むと。
「あらーーー!」
「うわー!アブね!」
五郎は試験官を掠めて壁に激突し張り付いたまま動かない。
「お、おい、すごい踏み込みだな………………まあそれだけだが」
「くう、力の加減が難しい…………」
「何もしてないのに傷だらけだな、もうやめるか?」
「いや!今度こそ平気です!お願いします」
「じゃあ次で最後だからな、いつまでもお前だけに付き合ってられん」
「わかりました!行きます!」
五郎は剣を構えて軽く踏み込み振り下ろす。
キンっ!…………サクっ
「は?剣が斬られてる………………」
ビルドが振り向くと五郎の剣先がビルドへと向けられていた。
「合格ですか?」
ビルドは笑いながら。
「ハハハ!お前すごいな!最初は訳がわからなかったが」
「よかったー、じゃあ合格なんですね?」
「ああ!文句なく合格だ!お前みたいな剣士見たことないぞ、というか初級職の剣士のレベルじゃねえ」
ビルドが五郎の肩をバン!と強く叩いた。ビクともしない五郎にまた驚いたが口には出さなかった。
“本当に不思議なやつだな、しかしこれは思わぬ戦力が現れたもんだ ”
その後、無事に冒険者カードを発行してもらった五郎が帰ろうとするとビルドが声をかけてきた。
「おい五郎、お前はどこに宿取ってるんだ?」
「まだこれから探すところです」
ニヤニヤしながらビルドが近づいてきた。
「そうかそうか、ならギルド推薦の宿に行くといい、俺の名前を出せばすぐに取れるはずだ」
「おお!助かります」
「場所は目の前のサクラ亭って宿だ」
「わかりました、行ってみます」
「おお、明日も来いよ待ってるからな」
「え?はあ」
そんなこんなで初日が終わったが、本人の思惑とは裏腹にかなり目立ってしまった五郎。それはこれからも続くが当の本人だけは目立ってないと思っていた。
“ よし、目立ってないはずだ!うん目立ってない目立ってない…………”
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