第2話 異世界

「ううーん………………ここは?」


 五郎が転移してきた場所はまたも森であり、夜だったはずだが太陽が見える。


「なんだ?ずっと寝てたのか?」


 キョロキョロと周りを見渡すが以前と変わらず木しかない。


「うーん、あんまり遠くまで転移したわけじゃないのかな?追手はないようだけど」


 周りを探索してみたが鬱蒼とした木々があるばかりで建物の1つも見当たらない。


「うわ寒!この格好じゃきついなあ」


 着ている服は薄手の白いパジャマみたいなもので、足元もスリッパだ。所持品もない。


「うーん、どうしよう方向も何もどっちに行けばいいかもわからないし」


 闇雲に歩いていたが自分が超能力者だというのを忘れていたようだ。


「あ!俺力に目覚めたんだっけ、空とか飛べるかな」


 自分を念力で浮かすよう念じるとフワッと浮き上がり森を見渡せるくらいまで上昇した。


「うわ、すごいな俺、完全な超能力者じゃん」


 自分に感心していると遠目に森に切れ目があるのをみつけた。


「あれは道かな?しかし広い森だな」


 切れ目まで行くとそれは道だった。問題は右へ行くか左へ行くかだが………………


「誰か通らないかな、でも車の轍じゃないなこれ、細いってことはバイク?自転車?」


 とりあえずそこで待つ間頭の中を整理することにした。


“ とにかくこれからは目立たないこと!これが大前提だ。あとは誰にもバレずにあまり人と関わらないように細々と生活をして天寿をまっとうする!

 そのためにもまず生活基盤を築かないとな”


 しばらくして何かが近づいてるのに気づく、感覚が研ぎ澄まされていると思ったが後に自然と探索スキルが発動していたことがわかった。

 五郎は空から確認するとすごい勢いで走ってくる馬車を発見した。


「馬車なんてまだあるんだな、イベントとかでなら見たことあるけど」


 ガラガラガラガラガラガラ!


 よく見ると何かに追いかけられているようだ、動物の群れのようで馬車の後方に10匹ほどの何かが見える。


「あれは犬?犬にしては大きいな、なら狼?日本の狼は絶滅したはずじゃ」


 五郎は馬車と並走するように空を飛び確認すると、牛ほどの大きさの狼が馬車を追いかけていた。


「でか!というか助けないと!」


 しかし、目立たないと決めた矢先に目立つ行動はしたくない。かと言って見殺しには出来ないし助ければ色々と情報が手に入る。


「空から一瞬で片付ければバレずに済むかな」


 五郎は10匹の狼に念じる、静かに屠るため心臓を破裂させた。


「死ね!」


 ズザザザザ!


 10匹の狼は糸が切れたかのようにその動きを止めた。


「なんかカッコイイセリフ言いながらのほうがいいかな、地味だよな」


 そんなことを言いながらバレないように馬車の近くへと降りる。


「あの、大丈夫ですか?」


 馬車に向かってそう言うと御者の男がこちらを向いた。歳は40くらいか、というか驚いたなんと金髪でどう見ても白人の外国人だ。


「あら?ここは外国?日本じゃないのかな?」


「もしや、あの魔物を追い払ってくれたのはあなたですか?」


「え、まあ、一応」


「そうですか!本当に助かりました!死ぬかと思いました。」


「いやいや、大したことはしてませんよ、ところでここはどこですか?」


「え?ここは北の大森林ですけど」


「ほうほう、なるほど」


“ って全然わからん!とにかく乗せてもらおう”


「あなたはこんなところで何をしているのですか?」


「迷子ですね」


「迷子?凄まじい迷子ですね、遭難の間違いでは?」


「そうとも言いますね」


「どちらの街から来たんですか?」


“ この人北から来てるんだから南に行くはずだよな”


「南の街からです」


「というとザランの街ですか、それならお乗りになって下さい、助けてもらったお礼もしたいので」


「助かります!是非お願いします」


 というわけでザランの街まで乗せてもらえることに成功した。


“ いやよかったよかった、一応人里までは行けそうだ、てかザランとかここは外国なんだな”


 ザランの街はここから3日ほどかかるらしい、それまでに情報を色々と聞くことにした。


「ここはなんて国ですか?」


「国ですか?ここはバルト王国です、あなたは違う国から来たんですか?」


「そうなんですよ、ハハハ」


 しかし、ハッキリ言って五郎は怪しい者にしか見えないだろう。季節に見合わない薄手の服にスリッパ、こんな森に所持品がないなど逃亡者にしか見えない。


「すいません、決して怪しい者じゃないんで」


「命の恩人の詮索なんてしませんよ、街に着いてもお困りだったら手助けしますので」


「そう言ってもらえると助かります、道中の護衛は任せて下さい!」


「それは心強い、是非お願いします」


“ よかったいい人で、ってかバルト王国って何?王国って王様がいるんだよね?馬車に外国人に知らない王様のいる国?”


「あの、」


「はい?どうしました?」


「魔法ってあったりします?」


「すいません私は使えないんですよ、スクロールも持ってませんし」


「あ、いえ、いいんです」


“ キタコレ、異世界じゃん、お決まりの中世ヨーロッパ風なんじゃない?ここなら追手は来ないし。よし!異世界で俺は静かに暮らすぞ!”


 異世界に来た五郎のスローライフがここから始まる。


 はずだった。

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