第弐話『踊る稲穂』

 2022年6月5日の日曜日。僕は緑が濃くなった田園風景を見ながらこれを書いている。これから紹介するのは、とある人間の女性。しかし彼女は、正に風に揺れる稲の様に、ユラユラと揺れるのである。

 だからこの風景がインスピレーションをかき立てるのにちょうど良い。


 彼女の名は『いなば』スプナーにありがちな推しマという物は持たないが、通称『ダンシング稲』という変わり身がいる。

 こんな感じ‪₍₍🌾⁾⁾‬


 何を隠そういなばは、僕にとっての最推しである。僕の小説『ローダ・扉の青年』の第19話『足りない”モノ”』の中にこんな一節いっせつがある。

『2020年、彼女の夕方の定期配信が始まった。彼は慌ててイヤフォンを探し、絡まった線をイライラしながら解き、装着が完了すると、すかさずスマートフォンのアプリを起動して・・』のくだりに登場するとは、いなばの事だ。


 現実でも2020年の春頃、いなばの定期配信を聴く為に、仕事を切り上げて、イヤフォンを装着した所、安価な品であるのがいけなかったのか、音声が悪いと感じた。

(彼女のクリアな声を聴きたいッ!)

 と、思った僕は、わざわざコンビニで高価なイヤフォンを買い直し、その事をコメントで彼女に告げた所、彼女は心底笑い飛ばしてくれた。僕が慌ててイヤフォンを買っているのを想像したらとても可笑おかしくなったのだそうだ。


 僕はいなばの事をSPOONで知る迄は、推しという言葉すら知らぬ程、人を応援する事を知らなかった。彼女はただ可笑しくて笑っただけである。でも転職したばかりで、不安しかなかった当時の自分にとって、彼女の笑い声に救われた気がした。

 彼女の声、彼女の笑い、そして配信中に水を飲む咀嚼そしゃく音すら、自分は

 聴いていて心地が良かった。

 これがなのかと、僕は46年も生きていて、初めて感覚で理解した。


 同年夏を前に、いなばの夕方定期配信は、終わりを告げてしまった。

 不定期配信になってからは、まさにと変わる配信時間に翻弄ほんろうされつつも、いつ聴けるか分からない彼女の声を全力で待ち望む事に、幸せすら感じていた。

 配信をしていない時は、彼女の配信したアーカイブ(キャスト)を聴いて、心を安らげるのである。


 ちょっと、ここでSPOONらしく、いなばの声そのものに触れてみよう。地声の彼女は低音が少々強めである。


「しばらく男性かと思っていました」


 とあるリスナーの声であるが、これは流石に言いすぎである。決して僕はそんな事を感じた事はない。

 しかし彼女は、突然セクシーなお姉さんの声や、『いな太』と呼ばれる少年の様な声をリスナーの耳に、立体音響マイクを使って左右に突っ込んで来る。

 いなばを男性だと勘違いしていた彼も、これにはさぞ驚いた事であろう。

「良かったら、ユラユラ~ユラユラ~、まった~り、していかない?来てくれてありがとう♪」

 これが彼女が良く使うリスナーへの入室コメントだ。いなばの声が揺れる度、僕の心も揺れ動くのである。


 ・・・・・・・待ってください。急に敬語へ転身てんしん失礼いたします。ええっと・・・わたくしここまで書いてて、とても違和感を感じました。


『こ、これって紹介文っていうより、完全に私のを語っているだけじゃないですか??恋文書いてる少年みたいな気分になってきたんですが、大丈夫ですか??』


 ・・・ふぅ、ちょっと落ち着けよ自分。ちょっとご飯でも食べて落ち着こうか。

 んっ!?ご、ご飯?こ、米!?稲!?

 嗚呼、もう駄目だ・・・。これ以上書き続けるのは危険だ。愛があふれすぎてちゃんと自分を制して書けそうにありません!

 後は、リスナーの皆様に託して私は、再びいなばの『きゅんきゅん雑談』でも聴いて落ち着こうと思います。お粗末様でした・・・。





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