第82話 ホーム

「ふ……此処が私達闇の使徒の、新たなる拠点ホームになる場所ね」


門を抜け、街中に入ったクレアが勢いよく街中を指さし、いつもの厨二チックな発言をかます。


「アホ行ってないで、さっさと宿探すぞ」


ここは隣国、カサノバ王国にあるグローリアの街。

ここに来た理由は勿論、戦場から発生する死のエネルギーをくすねる為だ。

この街は戦場から100キロ圏内にある。


「この人数なんだし。宿よりいっその事、皆で住める広い家を買った方が良いかもしれないわね」


そう言ったのはアイリンさん達だ。

聖なる剣の面々も、カサノバ王国への移動について来ていた。


理由は……まあアイシスのレベル上げを継続する為である。


彼女達からすると、高速でパーティーのメインアタッカーが育つのは激ウマだろうからな。

だから戦場からそれ程離れていない比較的危険な場所だというのに、聖なる剣は態々俺に付いて来たという訳だ。


え?

彼女達から入手する予定だったSランクの魔宝玉はどうするのかだって?


それなら問題ない。

迷宮はこの国にも存在しているからだ。

それが無かったら、俺だってこの国には来ていない。


因みに迷宮は大体どこの国にもあり、若干内部の造りが違うだけで、階層ボスは全部統一されている形だ。

まあワープクリスタルの設定が迷宮毎なので、200階層まで行くにはまた1階層目からスタートする必要はあるが……


ま、今の彼女達なら1週間もあれば楽勝だろう。

もちろん、遅れる分は200階層周回を頑張ってもらう事になるが。


「家の購入ですか?でも、いつ此処も戦場になるかわかりませんし……」


現在の戦線と思われる場所から、90キロ程の距離にこの街はあった。

カサノバ王国側が劣勢である以上、遅かれ早かれいずれここから退去する事になるだろう。

そうなったら、態々買った家もおじゃんだ。


別に金がない訳じゃないが、それはちょっともったいなく感じる。


「そうね。だからこそ、捨て値で買えるとも言えるわ」


「金に余裕のある奴らからすりゃ、戦場になって失うかもしれない資産なんてさっさと処分したいだろうからね」


アイリンさんの言葉に、パラポネさんが楽し気に捕捉を入れて来る。


グローリアの街は、そのお大きさの割に活気がない。

その理由は至って単純。

資金や状況的に余裕のある人間は、とっくにこの街から退去しているためだ。


そのため、大きな店なんかは半数近く締まっていたりする。


ま、何せ優勢と思われるガガーン帝国が、カサノバ王国の殲滅を宣言してる訳だからな。

逃げ出せる奴は、そりゃ逃げ出すに決まっているわな。


とは言え、他所で新しく生活基盤を築ける様な奴は一部でしかない。

大半の人間は、ギリギリまでこの街に留まざるえないのだ。

そのため、生活にそこまで大きな支障が出る程ではないとの事。


by、護衛さん情報。


「短期間とは言え、快適な環境を構築できるんだ。多少の出費ぐらい罰は当たらないと思うぜ」


「資金なら、私達聖なる剣が出すわ。だから気にしないで」


聖なる剣の面子が買うってんなら、それを拒否する理由はない。


「まあそこまで言うんだったら……でも、本当に俺達は出さなくていいんですか?」


「ええ、気にしないで。まあその代わりと言ってはなんなんだけど……もし空いた時間があったら、ちょっとでいいんで私達のレベル上げを手伝ってくれたら助かるわ」


「それ位なら、まあ……」


「ははは!頼んだよ大将!」


パラポネさんが笑いながら、俺の肩をバンバンと叩く。

宿を借りるのではなく皆で暮らせる家を買うのは、どうもそれが最大の目的の様に思える。


一緒に暮らしていれば、ちょっとした開いた時間なんかに経験値稼ぎを俺に頼みやすくなるからな。


流石聖なる剣のパーティーリーダー。

抜け目のない事である。


ま、いいけどね。

俺が下僕を殺すより、他の人間にやって貰った方が死のエネルギーは溜まりやすいし。


護衛さんからの依頼達成は早ければ早い方が良いので、自分のレベル上げは少し後回しにして、まずは彼女達のレベル上げを手伝うとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る