第81話 転移アイテム

死を弄ぶ秘術デス・クラフトで、瞬間移動する様なアイテムは作れないか?」


目的を終え、トーラの街に帰って来たその日の夜に護衛さんがやって来たかと思ったら、唐突にそう尋ねられる。

護衛さんは、俺を青い猫型ロボットか何かだとでも思ってるのだろうか?

寧ろそれは彼のポジションだと思うのだが。


因みに、護衛さんには死を弄ぶ秘術デス・クラフトについては伝えていない。まあ普通にクレアや聖なる剣の面子には話してあるので、護衛時に盗み聞きしていたのだろう。


「盗み聞きするなんて恥を知れ!」


等とはもちろん口にはしない。

煽るにしたって、相手は選ぶさ。

護衛さん怒らせていい事とか絶対ないしな。


「一体どうしたんです?」


「知り合いがガガーン帝国と、カサノバ王国の戦争に関わる様なのだ。それで私に応援の要請が来た」


「一緒に戦争に参加するって事ですか?」


「いや、そうではない。実は――」


通常、戦争だと戦場近くの村や町にどうしても被害が出る物だ。

戦闘や、物資調達の略奪等によって。


だがどうやら、今回のがガーン帝国とカサノバ王国との戦争は毛色が違うらしく、帝国側が住民の皆殺しまで命じているという。

護衛さんの知り合いは、その無道な殺戮を止めるために動くそうだ。


ま、一言でいうと命を懸けたボランティアだな。


それは素晴らしい行動だとは思うが……


「見ず知らずの他人の為に命を懸けるとか、俺には真似できませんね」


俺だって酷い状況の相手に、手を差し伸べるぐらいの優しさはあるつもりだ。

但し、それは自分の安全が確保されている事が大前提である。

親しい間柄の相手ならともかく、知らない人間の為に命を懸けるとか絶対無理。


「それで?何で転移アイテムなんです?今から駆け付けるとか?」


「いや……戦争はまだ始まったばかりで、直ぐに駆け付ける必要はない」


虐殺が始まるのは、まあある程度戦局が傾いてからだろうからな。

とは言え、帝国側の方が圧倒的に戦力で勝っているらしいので、そうなるのも時間の問題だとは思うが。


「そもそも私には、クレアお嬢様を守るという使命がある。だが、その知人にも大きな借りがあるのだ。見捨てる訳にはいかない」


「ああ、それで転移アイテムですか」


クレアを守りつつ借りを返す。

そして転移アイテム。

何となくだが、護衛さんがどうするつもりなのかが見えてきた。


「ああ。私と知人とで、緊急連絡する術は確保してある。緊急時に、手助けする為のアイテムが欲しいのだ」


「成程……この貸しは大きいですよ」


俺はそう言って、ニヤリと笑う。

護衛さんには色々と手伝って貰ったりしてきたが、こっちはこっちでクレアのお守りをしてやっているのだ。


此処まではイーブン!


よって、アイテム分は明確な貸しとしてさせてもらう。


「可能な限り善処する」


「とはいえ、直ぐには用意できませんけどね」


実際問題、死を弄ぶ秘術デス・クラフトで転移系アイテムを作る事は出来た。

だがそのためには、大量の死のエネルギーが必要だ。


現状、奇跡のガントレット制作にエネルギーの大半を使ってしまっているので、また溜めなおさなければならない。


「どれぐらい時間がかかる?」


「かなりのエネルギーが必要なんで、3か月くらいはかかると思います」


言うまでもないが、転移は強力な効果だ。

使いきりとは言え、制作には馬鹿みたいにコストが必要になってくる。


まあ1つだけならその半分の期間でも可能なのだが、応援に行ったはいいが、どうにもならなくなった時の離脱用にもう一つ用意ししておく必要がある。


片道切符って訳にはいかないからな。

だから2つで3か月だ。


「3か月か……」


護衛さんは苦々し気にそう呟く。


戦力がある程度拮抗しているなら、それぐらいの猶予は余裕で有るだろう。

だが、帝国側が圧倒的に有利となるとそうはいかない。

カサノバ側が3か月も最前線を維持できるかは、かなり怪しいと言える。


「でもまあ、期間を大幅に短縮する事は出来ますよ」


「なに!?ほんとうか!?」


「簡単な事ですよ。俺がカサノバ王国に行けばいい」


そう……戦場をスキルの100キロ圏内に捕らえれば、死のエネルギーを集め放題だ。

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