第80話 都落ち

都落ち。

それはヘブンスオンラインにおいて、アップデートで古くからいる元々ボスだったモンスターが型落ちし、一般モンスターへ降格する事を指す言葉である。


ま、要は使い回しだな。

そして俺の接収用下僕ターゲットは、その都落ちしたモンスターだ。


落ちたる悪の種子。

デーモン。


こいつは元々イベントを進めると、出て来るタイプだった訳だが……


呼び出すのに、毎回長ったらしいイベントを熟す必要があり。

しかも強さの割に大した物をドロップしない――レアは確率が低すぎて、ほとんど期待できなかった――事から直ぐに廃れ、実装初期以降、誰も見向きもしなくなった残念ボスである。


見た目は蝙蝠の様な羽を持つ人型のモンスターで、その皮膚は黒くひび割れており、瞳は不気味に赤黒く輝いている。

頭部に頭髪はなく、その額からは2本の黒い巻角が生えており、剥き出しの牙と爪は鋭く長い。


デーモンはボスから雑魚に都落ちするにあたって、そのレベルが120から240にまで引き上げられいた。

そのため、実はHP以外の能力は軒並み上昇していたりする。


ボス時代の配下とりまき召喚なんかは無くなってしまったが、ぶっちゃけ、こいつは雑魚になった方が強くなった稀有な例だ。


「見た目的には、弱体化してんのにな」


ボス時代は身長3メートルを超す巨体だったが、雑魚化した事でその背丈は2メートル頬度まで縮んでいる。

それと、背後に黒い魔法陣も浮かんでいたんだが、それもオミットされていた。


「なんとか、単品を引っ張って来ないとな」


王国東部には、闇の宮殿と呼ばれるダンジョンがある。

オーガ達を倒した平原の少し先にあり、周囲を濃霧に覆われたその宮殿内部にはデーモンが所狭しと蠢いていた。


まあ所狭しってのは言い過ぎだが、結構な数がいる為、下手に戦闘を仕掛けると一気にたかられて、下手するりゃあの世きも十分ありえる。

慎重にいかんとな。


「お、良い感じに他の奴から離れてる奴がいるな」


通路の角から、広間の中を覗き込む。

かなりの数のデーモンがうろつく場所で、そのうちの一匹がフラフラと此方へとやって来るのが見えた。


「おらっ!」


そいつが通路に入った所で、伝家の宝刀‟石”をぶん投げた。


「ヴヴヴゥゥ……」


石がデーモンに直撃し、俺に気付いた奴が唸り声を上げる。

奴は口の端から蒸気か煙か良く分からない物を吐き出しながら、此方へと凄い勢いで走って来た。


「はっ!追いついて見せな!」


レベルが240もあるだけあって、デーモンは全てがハイスペックだ。

当然足も速い。

軽く挑発してから、俺は追いつかれない様に全力疾走で奴を釣る。


「よし、此処なら大丈夫だな」


デーモンは宮殿の外まではついてこないので、宮殿入って直ぐの広い場所で奴を始末する事にする。

俺は振り返り、剣を構えた。


――デーモン――


種族 :悪魔

Lv :240

HP :6,666/6,666

MP :6,666/6,666

筋力 :6,666

魔力 :6,666

敏捷性:6,666


・スキル


悪魔術【-】

ダークスキン【-】

自然回復【3】

呪爪【5】


高レベルモンスターにしてはHPがやや低めではあるが、奴にはダークスキンという防御スキルがある。

皮膚が黒く変色し、物理・魔法に対する強い耐性を得る効果だ。

奴の皮膚が黒いのはこのスキルのためである。


ま、元の色とか知らないけど。


悪魔術【-】は悪魔限定の魔法マスタリーだ。

詠唱妨害が一切効かない様になり、しかも超高速で魔法を放って来るため、近接戦中でも魔法攻撃が油断出来ない。


自然回復は読んで字の如く。

呪爪【5】は爪で攻撃する際に、ステータスがダウンする呪いが付与される。

爪の攻撃自体は物理判定だが、呪いの成否は魔力で決まるので、戦士なんかだと呪いを喰らいまくる事になるだろう。


「ヴオォ!」


俺に追いついたデーモンが、両手を広げ雷の魔法を放つ。

魔力6,666で放たれる上級魔法の威力は、リッチーの比ではない。

直撃すれば、俺でも結構なダメージを受ける事になるだろう。


「おっと!」


それを間一髪で躱しつつ、一気に間合いを詰める。

デーモンがその動きに、素早く爪の一撃を合わせて来た。

俺はそれを剣で弾きとばす。


「ぐうぉう!?」


今の俺の筋力は、オーガウォーリアーを吸収した事で13,000オーバー。

更に奇跡のガントレットのお陰で筋力は1,4000超えだ。

単純な1対1のパワーのぶつかり合いなら、俺に圧倒的なアドバンテージがある。


「はっ」


自分の攻撃が簡単にはじき返されるとは思っていなかったのだろう、隙だらけだ。

俺の一撃が奴の胸元に真面に入る。


ダークスキンの効果があるとは言え、俺のパワーは絶大だ。

直撃したので、今ので4分の1近くは削れているはず。


とは言え、相手も馬鹿ではない。

近接戦で敵わないと気づくと、防御スタンスからの魔法戦に切り替えて来る。

流石に魔法は喰らうと痛いので、此方も慎重に戦いを進めていく。


「これぐらい与えてりゃ、もう50%は行ってるだろ」


ある程度ダメージを与えた所で、指輪に収納している下僕達を呼び出した。

残りは皆でタコ殴りに切り替える。

目的はタイマン勝利などという自己満足ではなく、下僕の更新だからな。


「ヴオオォォォ……」


そしてあっさり勝利。


正に数の暴力。

これが絆の力である。


さて、下僕化する前に心臓は抜いておくか。

悪魔の心臓。

進撃の死霊術師アタックオン・ネクロマンサーで実装されたアイテムで、錬金術を使って経験の宝玉を生み出す事の出来る素材だ。


まあ1個で手に入る経験値は10万と少ないので、基本はサブキャラ育成用だな。

俺にとってはもはや大した経験値ではないし、サブキャラなんて物もいない。

それでも収集するのは、金持ちや貴族のボンボンが高値で買い取ってくれると踏んでの事だ。


ま、ちょっとした小遣い稼ぎだな。

金はいくらあっても困らない。


因みに、下僕化はアンデッド化した弊害で素材が劣化してしまうで、無限収穫は出来ない様になっている。

無念。


「さて、頑張って後3匹狩るとするか」


デーモンは4匹確保する予定である。


まあ頑張ると言っても、一匹手に入れた事で俺の戦闘能力は大幅に上がるし――さっそく接収。

若干パワーダウンしているとはいえ、デーモン自体が下僕に加わった訳だからな。

さっきみたいにチキって一匹だけってのをやる必要もないので、残りは楽勝だろう。


俺はサクッと下僕更新を終えるのだった。

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