第69話 ルーチン
――最強を目指す死霊術師の一日――
朝、目を覚ます。
ベッド脇にはごつい下僕が二匹立っている。
アンデッド化したオーガだ。
正直圧迫感が凄いので、清々しい目覚めには程遠い気分だ。
だがこいつらは一応夜間何かあった時用の護衛なので、我慢するしかない。
因みに、オーガは敵意や殺意に敏感な種族なので、相手が暗殺者で姿を隠していたりしてもちゃんと対応できる優秀な寝ずの番である。
「ご馳走様」
服を着替え、出かける準備してから宿の食堂で食事を摂る。
異世界転生しても、前世の習慣――『ご馳走様』がついつい出てしまう。
まあ誰かに迷惑をかける者でもないしいいだろう。
そして食後はギルド近くでクレアと合流。
「ふ、戦いの宿命が私達を呼んでいるわね」
「はいはい、やみやみ」
いつもの戯言を適当に流し、迷宮へと向かう。
191階層から199階層到達までにかかる所用時間は、だたいた3時間程。
出て来る魔物は190オーバーなので、流石にガン無視とはいかない。
一応できる限り戦闘は避けているのだが、それでも、どうしても時間がかかってしまう。
まあこれは必要経費として諦めるしかない。
一応最低限の経験値と魔石は貰えるわけだしな。
そしてボス戦。
此方は10分程で終了する。
負ける要素無しだ。
199階層エリアボスのSランク魔宝玉のドロップ率は100%で、そのドロップ数は1から9個だ。
まあ8個や9個落ちるのは極稀で、大体平均4個ぐらいと考えていいだろう。
Sランクの魔宝玉はアルティメットエリクサーの製作に必要な物で、入手方法はゼゼコに依頼した際に発生する大成功のみとなっている。
アルティメットエリクサーの必要数を100個と仮定して、発生率が1%である事から、Sランク魔宝玉の必要数は約1万個。
その数を用意するには、ドラゴンを2500回討伐する必要がある。
1日1回なら2500日。
約7年かかる計算だ。
もちろんそんなに時間をかけるつもりはない。
インスタントダンジョンはクールタイムが6時間、1日2回までなので、朝晩2回行く。
まあそれでも3年半かかる訳だが……そのための聖なる剣だ。
ダンジョン脱出後は、1度トールの街へと帰還する。
クレアとは一旦解散し、軽く昼食を取って、今度は聖なる剣のメンバーと合流だ。
彼女達のレベル上げのために。
レベル上げに使う時間は、午後1時から4時までの3時間。
その間、俺は黙々と死霊化で経験値となった下僕達の蘇生に務める。
MPの多いリッチーを吸収しておけば、自然回復が消費を上回り、ほぼノンストップで蘇生可能になるので休憩はいらない。
餌となる下僕の経験値だが、オーガは8万で、リッチーは6万。
まあ1割能力が減少しているので、正確には7万2千と、5万4千だが。
こいつらは強モンスターだけあって、経験値がヒーリングデスフラワーとは桁違いだ。
耐久力が高く、回転率が下がってしまう点を考慮しても効率は段違いと言っていい。
「はぁ!」
「せりゃ!」
「喰らいなさい!」
聖なる剣が下僕を倒していく数を、俺は蘇生を行いながらカウントする。
1時間当たりの取得経験値を割り出し、レベリングにどの程度時間がかかるか計算する為に。
まあ流石に、誰がどれだけ倒せているかまでは数えていないが。
計算して見た所、1時間当たりのパーティー全体が獲得する経験値量は3240万程だった。
ざっくり7人で割ると、1人頭462万。
このペースで狩れれば、1日1400万近くの経験値を得る事になる訳だが、2時間目以降は明らかにペースダウンしていく。
体力の消耗や、MP不足による物だ。
オーガ達のタフさによる弊害と言っていいだろう。
硬い敵を倒すには、どうしても全力攻撃を繰り返す必要があるからな。
仕方がないので休憩を挟みつつ、最終的に3時間で稼げた経験値は1人平均1000万程に落ち着く。
パーティーの平均レベルが150と考えて――アイシスはちょっと低いが――レベル200までに必要な経験値は1億5千万。
このペースで行けば、2週間程で目標レベルに達する事だろう。
「凄いわね、これ」
「ああ、今までのがなんだって気分になる」
「此処まで来ると、なんかズルしてる気分になっちゃうわ」
今日一日で全員レベルがいくつも上がっているので、死霊術師のレベリングは大好評だった。
彼女達は俺からすれば、
早く大きくなるんだよと、心の中でニヤリとほくそ笑む。
「ユーリ、何か悪い事考えてない?」
アイシスは無駄に勘が鋭くて困る。
「俺みたいに(自分に)正直な人間が、悪い事なんて考える訳ないだろ」
訝しそうに俺を見るアイシスに適当に返事を返し、聖なる剣と別れて俺は再びクレアと合流する。
本日2度目のドラゴン退治だ。
それを終えると、もう結構いい時間になっていた。
クレアに一緒に食事でもどうかと誘われたが、断固拒否しておく。
フード被った怪しい奴と食事とか、ただの罰ゲームだからな。
しかも厨二的な発言まで付いてくるとなれば、もう断るしかないだろう。
適当に食事を済ませた俺は、宿に戻って湯あみしてからベッドに寝っ転がる。
ああ、勿論夜間護衛用にオーガを出すのも忘れない。
「ふぁ~あ、ねむ……」
さて、今日はこれで終了だ。
明日も頑張って、魔宝玉集めと、鶏共の飼育を頑張るとしよう。
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