第68話 パワー

「ごおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


円形の広い空間。

その中央で丸まって寝ていたドラゴンが此方に気付いて起き上り、バカでかい声で雄叫びを上げる。

ゲーム時代はボリュームを最小にしていたので気にならなかったが、そういった機能のないリアルでは五月蠅い事この上なしだ。


起き上ったドラゴンは、迷わずこっちへ突っ込んで来た。


――正面から受け止める!


と言いたい所だが、グレートキメラと違って、流石にこいつの攻撃を真面に喰らうとかなりのダメージを受けてしまう。

俺は横っ飛びに躱しつつ、その前足に軽く斬り付けた。


硬い感触と抵抗感。


ドラゴンは強固な鱗を持つ。

いくら筋力があると言っても、流石に躱しながら軽く斬り付けたのでは余りダメージが通らない。


チキって長期戦もあれなので、ある程度ダメージ覚悟でガッツリ斬り合う事にするとしよう。

まあヒーラーもいるしな。


「おおおぉぉぉぉぉ!!」


ドラゴンの噛みつきを躱しつつその顔に斬り付けた。

今度はしっかりとダメージが通り、切り傷から紫の液体が飛び散る。


「やっぱ俺を集中狙いか」


両サイドからオーガが、手にした石剣でドラゴンに斬りかかる。

更にリッチーの遠距離攻撃も加わり、ダメージが積み重なっていく。

だがドラゴンは両サイドのオーガ達を無視(若干しっぽ振り回して対処しようとしているが)して、俺に集中攻撃を仕掛けて来る。


他に意識をやって、俺をフリーにする事が一番まずいと本能的に判断しての行動だろう。

まあその判断は正しいんだが、残念ながらダメージディーラーは俺だけじゃない。


「隙だらけね!」


「受けなさい!ダークフレイムブレード!」


クレアの分身二体が、シャドーワープでドラゴンの背後を取る。

そしてそのまま魔法剣2連打を叩き込んだ。


「ぐおおおぉぉぉぉぉぉ!!」


ドラゴンが苦悶の雄叫びを上げた。

相当効いている様なので、恐らく魔法部分でクリティカルが出たんだろうと思われる。


「隙あり!」


瞬間的に叩き込まれた、バックアタックによる大ダメージ。

これがゲームなら、ヘイト的に俺を淡々と狙い続けていただろう。

だがここが現実である以上、目の前のドラゴンには命も痛覚もあるのだ。


そしてそれが隙へと繋がる。


ドラゴンが背後を気にしたその一瞬の隙を突き、俺は奴の胸元に手にした剣を全力で突き込んだ。

鱗を砕き、肉を抉る感触。


効果は抜群だ!


って所だな。

まあ只の突きだから、効果なんてないけど。


「ごおぉぉぉぉぉぉぉ!!」


反撃気味に、ドラゴンの前足が頭上から俺に振り下ろされた。

その手から生える爪は赤く輝いている。

スラッシュのスキルだ。


俺は剣を引き抜き、それを素早く避けた。

が、完璧には避けきれず、奴の爪が俺の腕を引き裂く。


その威力に、装備していたミスリルの小手が衝撃で弾け飛んでしまう。


「つぅぅぅ……」


グレートキメラに噛まれた時は小手無しでもちょっと痛い程度で済んだが、流石にスキルの斬撃を喰らうのはきついな……

俺は痛みを堪え、追撃の噛みつきを横っ飛びで躱し。


「ナイス!」


そこに、ヒーリング・デスフラワーの回復が飛んで来た。

流石に一発で全快復とはいかないが、それでも一気に痛みが治まってくれる。


「おおおぉぉぉぉ!!!」


ドラゴンの目が紅く光り、力強く雄叫びを上げる。

先程までとは違う。

怒気の含んだ怒りの雄叫びではなく、警告に近い感じの雄叫びだ。


ゲーム等で敵が大技を使う際に、分かりやすいサインを出す事がある。

この雄叫びは正にそれだった。


「ユーリ!何か来るわよ!」


背後でクレアが声を張り上げる。

今までの雄叫びと違う事に気付くとか、思ったより勘が鋭いな。

俺はちょっとだけ彼女への評価を上方修正する。


「オーガ!防御しろ!」


今更離れろと言っても絶対に間に合わない。

ダメージを最小にする為にも、張り付いているオーガ3体に俺は防御の指示を出す。


クレアの分身の方は……まあ完全回避で生き残ったらラッキー程度に考えておくとしよう。


「ヴオウ!」


ドラゴンの全身から、オーラの様な物が立ち上がった。

そして次の瞬間、高速の横回転。

周囲を薙ぎ払う巨大な尾の一撃がクレアの分身一体を消し飛ばし――一体は完全回避が発動した為、攻撃がすり抜けた――更に側面のオーガ2体を激しく弾き飛ばした。


そしてその攻撃は、俺にも迫る。

俺はそれを――


「どっせぇい!!」


真正面から両拳を叩きつける様に受け止めた。

そう、これこそがローリングコンボを止める一番簡単な方法だ。


ローリングブレスは、ドラゴンの近くに敵がいると使ってこない。

そのため、ローリングテールのノックバックさえどうにか出来れば、強烈なコンボは止まるという訳だ。


このドラゴンのレベル200以下の一般的な攻略方法は、ナイト系複数でシールドバッシュ(ノックバックスキル)を使い、尻尾を止めるのがセオリーとなっている。

複数必要なのは、相手のパワーと重量の都合から、単体では押しとどめきれないからだ。


ま、俺は筋力5000オーバーだから無理やり正面から受け止めた訳だが。

正に力こそパワー!


因みに、暗殺者のシャドウワープで攻撃終わりに背後を取るという戦法で防ぐ事は難しい。

何故なら、攻撃終了とほぼ同時にブレスに移行してしまうからだ。


コンマ数秒の世界。

余程神がかり的な腕の持ち主でもない限り、その方法を実践する事は出来ないだろう。


ま、護衛さんはその方法で別の迷宮の199階層エリアボスドラゴンを狩ってたらしいけど……


「おらぁ!」


その後2度ほどローリングテールを受け止め、剣を腹に突き刺した所で勝利。

討伐までにオーガが各一回ずつ転がされはしたものの(当然死霊化で即時蘇生)、まあ特に問題なく攻略完了と言っていいだろう。


「しかし……分身だけで殴らせる戦法は在りだな」


分身二体とは言え、クレアの火力が無かったらもっと時間がかかっていた筈だ。

ドラゴンはとんでもなくタフだからな。

彼女の火力を利用しつつ、安全を確保するこの『指揮官ごっこ』は、今後も活用させて貰うとしよう。

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