第67話 指揮官

199階層のエリアボスはドラゴン。

大抵のゲームだと、強種族に設定されている事が多い魔物だ。

それはヘブンスオンラインでも同じで、大型ボスにはドラゴンが多い。


この199階層にいるのは、羽のないタイプとなっている。

四足を地に着いた、少々あんこ型の体系。

体長は15メートル程で、体高は3メートルと言った所だ。


ボス系のドラゴンとしては小柄だが、レベル200未満が相手なら十分強敵と言える強さを秘めていた。

実装当初はレベルキャップが180だった事もあって、討伐方法確立にかなり梃子摺らされた思い出がある。


その攻撃方法は突進、噛みつき、引っかき、踏みつけで、背後に回ると尻尾による攻撃も待っている。

更にドラゴンは一定周期でローリングテールと言う、ノックバック付きの360度全方位攻撃を放ち。

それに続けて、全方位攻撃であるローリングブレスも使って来る。


このボスの厄介な攻撃は、このローリング系2連打だ。


ローリングテールで近接プレイヤーを引きはがし、ローリングブレスで戦闘フィールド全体に大ダメージをばら撒く。

これを喰らうと、今の俺でもかなりのダメージ受ける事になる。

当然他の面子だと、聖騎士であるアイリンさん以外は即死する事になるだろう。


そんな危ない場所に、他の面子を連れてきてよかったのか?


まあ問題ない。

要は撃たせなければいいだけの話だ。

ローリングブレスを。


「クレア。分身だけで攻撃して、お前自身は後方待機しててくれ」


ドラゴンの攻撃力はかなり高い。

耐久力に難の有る――完全回避は運ゲーなので――クレアが万一直撃を喰らった場合、大ダメージを受ける事になる。


そうなると当然、護衛さんがお冠だ。

それは絶対避けたい。


だがドラゴンは硬いので火力は欲しい。

そんな我儘な願いを叶える折衷案。

それがクレアの分身にだけ殴らせる、である。


分身ならやられても痛くもかゆくもないしな。

HPが低いだけで、火力もクレア本体と同等だ。

我ながら完璧な作戦である。


が――


「私は闇に選ばれし者!そんな無様な戦いをするつもりはないわ。龍殺しは私に任せなさい!」


訳:ガンガン行こうぜ。


――で、拒否られた。


だがまあ、この程度は勿論想定済みだ。


「クレア。199階層如きで、お前の真の力を使うまでもない。そうだろ?だから温存だ」


179階層のエリアボスで、全力で攻撃してた?

そういう細かい事はどうでもいいんだよ。

重要なのは、彼女の厨二魂をくすぐる事なのだから。


「ふ……確かに。いくらドラゴンとは言え、私の真の力を使う程の相手ではないわね」


良い感じの反応だ。

チョロくて助かる。

さて、更にダメ押ししておくとしよう。


「クレア、出来ればお前には指揮官を務めて欲しい」


「指揮官……」


「ああ。下がった位置から全体を見渡し、的確に指示を出す。闇の存在である俺達に、指示を出せるのはお前だけだ!」


俺は自分の下僕達に向かって手を向ける。

特に意味のない、ただのパフォーマンスだ。

だがきっとクレアの頭の中では、カッコいいシーンに変換されているに違いない


「ふ……ふふふ、そうね。闇の軍勢への指揮は私に任せなさい!」


下僕に分身を含めても、その数はたった13だ。

軍勢と呼ぶには果てしなく程遠いが、余計な突っ込みは慎んでおく。

折角乗ってるのに、水を差しても良い事はないからな。


「ああ、頼んだぞ」


「期待してて頂戴!」


あー、ちょろいちょろい。

心の中でそう考えながら、ニヤリと口の端を歪めていると、アイシスが俺の肩に『ポン』と手を置いて来る。


「なんか……しばらく会わないうちに、人を騙すの上手くなってない?ユーリ」


彼女の方を見ると、その顔は何とも言えない表情をしていた。

俺がクレアの安全のためにしているという事を分った上で、騙くらかす様な手口は宜しくない。

といった複雑な感情の表れだろう。


「ま、ちょっとした処世術だ。世の中、綺麗ごとだけじゃ渡っていけないからな」


俺はアイシスに、爽やかな笑顔でそう返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る