第64話 召喚の儀

知らない初期クエスト。

知らない装備に、謎のNPCっぽい幽霊。

更にユニークスキルに、ドロップの変更。


今までリアルだからとスルーしてきた要素だが、よくよく考えてみれば、それらすべてがアップデートの可能性を指し示している。


なんで今まで気づかなかったんだこの馬鹿は。

と、自分で自分に呆れはててしまう。

我ながら視野の狭い事この上なしだ。


「ふむ……」


しかし……アップデートが来ているなら、俺の目指すゴールは変わって来るな。


進撃の死霊術師の時点では、レジェンド装備を付けた状態が最強だった。

向かうところ敵なしな程に。


だがネットゲームとは常にインフレしていく物だ。

俺の死後、10、20とアップデートが重ねられていけば、実装時は狂った強装備だったレジェンドアイテムの輝きも、いずれは霞んで行く。


まあ斜陽状態のヘブンスオンラインがあの後何年も続いたとは思えないが、それでも数個はアップデートがあったと考えるべきだろう。


流石にその短いスパンでレジェンド装備を過去にするレベルの物が実装されてはいないだろうが、より上位の装備が実装されていてもおかしくはない。

それに、それ以外の要素でキャラの強弱が変わっている可能性も十分に考えられる。


レベルのキャップも上がっているだろうしな。


「情報収集が必要か……」


レジェンド装備を超える強装備の有無。

キャラ性能の変化。

レベルの上限はいくつなのか。

それに、特殊な効果をもった有用な装備についてもだ。


「急に考えこんじゃって、どうかしたの?」


「ふ、私にはわかるわ。ユーリは今、闇に魂が捕らわれていたのよ」


思索にふけっていたら、アイシスが俺の顔を覗き込んで来た。

その横で、クレアがドヤ顔――フードで見えないが、まあ分かる――で厨二発言をする。


「んな訳あるか」


クレアの馬鹿な発言を否定する。

してから、ふと思う。

ゲームの廃人的思考はある意味、闇に魂が捕らえられていると言えなくもないのではないのか、と。


業が深い事には変わりないからな。


ま、そんな事はどうでもいいか。

気にするだけ時間の無駄だ。


「まあ、ちょっと思う所があっただけさ。さっさと190階層に上がって、今日はもう迷宮を脱出するとしよう」


ボスを倒した以上、189階層にはもう用がない。

190階層に上がって、クリスタルを使って迷宮から脱出する。

191階層以降はまた明日だ。


「じゃあまた、明日の朝一集合って事で」


トーラの町まで戻ってパーティーは解散。

聖なる剣の面々はこの後道中の魔物や、エリアボスの情報を精査する様だった。

自分達ならどう戦うとか、そういった奴だ。


レベルさえ上げればと思わなくもないが、まあその辺りはパーティーとしての指針なんだろう。


解散後、クレアの後を追いかける。

他のメンバーの前ではやりずらい事があったからだ。


「おーい、クレア」


「何かしら?」


「知りたい情報がある!そう俺には知りたい情報があるんだ!!」


俺は大声でそう告げる。

周囲に聞こえる様に。


周りの人間が俺の声になんだなんだと振り返るが、まあ必要な事なのでしょうがない。


そう、この行動は必要な事なのだ。


「ふ……闇について何が知りたいのかしら?」


「いや、そう言うのは別にいいんで。じゃ、また明日」


俺の目的は、知りたい情報がある事を伝える事だ。

それを済ませた今、厨二話になど興味はない。

片手を上げて、さっさとその場を去えう。


え?

何でそんな意味不明な行動をしたかって?


そんなの決まってるじゃないか。


護衛さん召喚の儀式だ。

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