第63話 死後

あり得ない筈の、Sランク魔宝玉のドロップ。


「えっと……すいません。Sランクの魔宝玉って、189階層でもドロップするんですか?」


取り敢えず俺はそれを拾い、アイリンさん達の元へ向かってそれを確認する。


「へ、ドロップ?えーっと……」


俺の質問に、アイリンさんは困った様に他のメンバーへと視線を投げかける。

どうやら彼女はその答えを持ち合わせてはいないだ様だ。


「Sランクの魔宝玉なら、179階層のエリアボスもドロップするそうよ。ま、確率は低いらしいけど」


妙齢の女性。

狩人のエレンさんが、アイリンさんに代わって俺の疑問に答えてくれる。

どうやら189階層所か、179階層のエリアボスでもドロップする様だ。


「成程。そうなんですね。てっきり199階層以上じゃないと出ないんだと思ってました」


ゲームと現実との差異。

そう片付け様と思ったが……本当にそうか?


アイシスの持つ爆裂の腕輪の時は流してしまったが、他の要素ならともかく、迷宮のドロップまで変わるのは明らかにおかしい。


魔物が消えてドロップが出るなんて、どう考えてもリアルでは起こりえない現象だ。

正にゲームライク。

その仕様のドロップがリアルに影響されるなど、完全に意味不明である。


ゲームみたいな世界自体が、意味不明と言われればそれまでなんだが……


それは一旦おいておこう。

それよりも、だ。

俺はドロップ品が変わる現象に心当たりがあった。


そう、それはアップデートだ。


ネットゲーム等では、入手難易度の高いアイテムがアップデートによって、入手が容易になる事が往々にしてある。


それは新規実装されたクエストの報酬だったり。

新しいモンスターのドロップであったり。

そして、旧来のモンスターなどへのドロップへの追加だったりする。


知らないアップデートが当たってる可能性……か。


俺がプレイしていた最終環境は、進撃の死霊術師アタック・オン・ネクロマンサーと呼ばれる大型アップデートが当たった物だった。

てっきりそれが最新の物だと勝手に思い込んでいたのだが……


「……」


俺は死んでこの世界に転生している。

なぜ死んだのか等の細かい部分は思い出せないが、間違いない。

まあ思い出せない時点で明確な根拠はないんだが、何故だかそれは確信できる。

絶対に間違いないと。


そしてもう一つ、間違いない事があった。

それは、俺の死後もヘブンスオンラインのサービスが続いていたって事だ。


ネットゲームなんかは、長く続くとそのプレイ人口は右肩下がりになる。

余程の事がない限り、盛り返す可能性は少ないだろう。

そこそこ長く続いたヘブンスオンラインもその御多分に漏れず、人口は実装当初より遥かに減っていた。


まあ要は、ヘブンスオンラインは斜陽だった訳だ。


その逆転の一手が、インフレアップデートと呼ばれる進撃の死霊術師アタック・オン・ネクロマンサーだった訳だが……

結果的には俺が極限レイドとして暴れたせいで、廃人連中が軒並み引退していき、過疎化は進んでしまう事に。


まあだがそれでも、直ちに終了する程に末期ではなかった。

だから何らかの大きな事情がない限りは、間違いなくサービスは続いていたはずだ。

そう、俺の死後も。


俺のプレイに合わせた、俺の為の世界。

それは流石に、頭がお花畑過ぎる考えだ。


そう考えると、当たってるよな。

確実に。

俺の死後に発生したであろう、ヘブンスオンラインのアップデートが。

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