第62話 あれ?

179階層攻略後は、迷宮から一旦帰還。


雑魚が強くなってきたのもあるが、聖なる剣の面々を連れての行動はクレアと二人だった頃よりも、どうしても速度に難が出てくる。

そのため、171階層から178層までの通過に数時間を必要とした為だ。


まあ俺はまだまだ元気なのだが、自分がそうだからといって周りもそうだとは限らない。

所謂気遣いって奴だな。


翌日、集合してから180階層へと飛び。

そこから魔物を狩りながら進んで、6時間ほどかけて189階層へと到着する。


エリアボスはグレートキメラと呼ばれる、体高2メートル程の四足の魔物だ。

獅子の頭部と体がメインで、左肩の当たりからは山羊の頭が。

腰には蝙蝠の翼の様な物が備わっており、尻尾は蛇という姿をしている。


まあゲーム等で馴染みの、まんまキメラだな。

正確には、その上位種だが。


グレートキメラの攻撃パターンは突進に噛みつきに、山羊の頭部による恐怖フィアー効果付きの雄叫び。

それに蝙蝠の羽から放たれるカマイタチと、蛇の尾による毒噛みつきとなっている。


多才な攻撃方法ではあるが、特に気を付けるポイントはない。

今の俺のステータスなら、どの攻撃を受けても大したダメージではないからだ。

特殊攻撃の毒と恐怖フィアー(ステータスダウン)も、ほぼレジスト出来るだろうし。


「クレア。今回は俺だけで倒すから、下がっててくれ」


前回クレアの超火力で、179階層のエリアボスである嘆きの蠅を瞬殺している。


流れとしては、リッチーの火魔法で遠距離攻撃。

怒って蠅が反撃の魔法。

それを俺やオーガが受け止めてる隙に、クレアがシャドウワープで背後を取って、ダークフレイムブレード(仮)×3連打で仕留めている形だ。


だがそれが可能だったのは、相手がスピードタイプだった事と、火属性と言う明確な弱点が存在していた為である。

いくらバ火力とは言え、明らかにパワータイプで弱点のないこのグレートキメラを瞬間火力だけで仕留めるのは難しいだろう。


まあそれでも半分ぐらいは一瞬で削っちまうだろうが……


問題は背後で待ち構えている蛇だ。

下手に仕掛けると、クレアがダメージを負いかねない。


流石にそれでやられるなんて事はないだろうが、こわーい人が見張ってるからな。

だから今回クレアには見学していてもらう。

聖なる剣の面々と一緒に。


「ふふ、いいわ。そこまで言うのなら、今回の獲物は譲ってあげる」


何が‟そこまで言う„なのかは知らないが、そこは突っ込むだけ野暮という物だろう。


「まあ昨日の戦い振りを見た感じ、問題ないんでしょうけど……気を付けてね、ユーリ君」


「はは、すぐ終わらせてきますよ」


アイリンさんに軽く答え、俺はボスエリアに足を踏み入れる。

その瞬間――


「ぐおおおおおぉぉぉぉ!!」


グレートキメラが、空間を振るわせる様な強烈な雄叫びを上げた。

気弱な人間ならビビッて足を止めてしまう所だろうが、別にこれ自体は攻撃でも何でもない。

ただ五月蠅いだけの雄叫びなど気にせず、俺は下僕と共にグレートキメラへと突っ込んだ。


「ぐうぅおう!!」


グレートキメラも此方に突っ込んで来る。

そしてその顎を大きく開き、勢いよく俺に噛みついて来た。

俺は左手を横に出し、敢えてそこに噛みつかせる様に右へと避ける。


「ぐっ……っていう程でもないか」


グレートキメラの巨大な顎が、俺の腕を捕らえた。

だが大したダメージではない。

高い筋力とHPのお陰だ。


何故左手に噛みつかせたのか?


理由は簡単である。

この状態なら、相手の動きを押さえ込めるからだ。


チマチマした削り合いみたいな戦い方をするより、こっちの方がサクッと簡単に終わらせられるからな。


「フィアーか」


獅子の頭部は、俺の腕に夢中で噛みついている。

だが山羊の頭部の方はフリーだ。

大きな口を開き、フィアーの籠った雄叫びをばら撒こうとする。


フィアーは精神攻撃に分類される。

精神攻撃は魔力でレジスト出来るので、俺にはまず効かないだろう。

魔力の高い、リッチー達も同じだ。

だがオーガとヒーリング・デスフラワーはそうでもない為、喰らう可能性があった。


まあそこまで強力な効果ではないのだが、喰らってやる謂れもない。


「させねーよ!」


俺は右手に握った死霊術師の剣で、山羊の頭部を突き刺してそれを止める。

その一撃が相当効いたのか、獅子の頭部が俺の腕を離そうとするが――


「まあそう慌てるなよ」


俺は左手で相手の牙を掴み、頭部を引き寄せる形でがっちり固定する。

人の腕に噛みついておいて、山羊の首を刺されたぐらいで逃げられると思ったら大間違いだ。


「うぅぅぅぅぅぅ……」


歯を掴まれて離れられないグレートキメラが唸り声を上げる。

見ると、腰の羽が羽搏く様に動く。

カマイタチを放つつもりなのだろう。


このままでは、俺はいい的だ。

が、問題ない。

何故なら、俺は一人ではないからだ。


「おおおぉぉぉぉぉ!!」


遅れてやって来たオーガが、羽に飛び掛かってその動きを押さえつけた。

若干弱体化しているとはいえ、筋力2000中盤のパワーだ。

羽を押さえつけるだけなら十分である。


逆側も、もう一体のオーガが羽を押さえる。

これで残すは蛇の頭部だけだが、見上げると頭上から俺に襲い掛かって来る直前だった。


まあ噛みつかれてもたいして問題はないのだが、最後のオーガが飛びついてそれを防いでくれる。

その際蛇に噛まれてしまっていたが、オーガの筋力なら問題なく毒はレジストされている筈だ。

仮にかかったとしても、直ぐに解除されるだろう。


「ぐぅぅぅぅ……」


「さて……」


獅子の頭部は、俺の左手で牙を掴んで押さえている。

山羊の頭部は串刺しの刑に処したので動かない。

腰の羽と尻尾の蛇はオーガ三体が。


完全ロックという奴である。

まあまだ前足があるが、これは左手の力を下向きに加えてやれば真面に動かせなくなるので問題なしだ。


「テレッテテテー、テーテテー」


なんとなく、処刑用のBGMを口ずさむ。

特段テンションが上がっていた訳ではないんだが、ついつい。


俺は右手に握る死霊術師の剣で、グレートキメラの首元を突き刺した。

普通の魔物ならこれで即死ものなんだが、流石にエリアボスは頑丈だ。

一回や二回首に刺した位では死んではくれない。


痛みから奴は拘束から逃れようと藻掻き出す。

が――


「逃がさねーっての」


俺は左手に力を込めて動きを制し、剣を引き抜き再び差し込んだ。

それに合わせるかの様に、リッチー達の魔法がグレートキメラに着弾する。


「おおおおおぉぉぉぉ!!」


グレートキメラが苦痛から雄叫びを上げ、体を揺すって何とかしようと更に激しく暴れる。

だが逃がさないし、容赦もしない。

俺は死霊術師の剣をがすがすと首元に突きまくってやった。


大体10回程刺しただろうか?


グレートキメラの体から抵抗が完全に消え、その姿が消滅した。

所用時間は約30秒程。

もし最初に腕を噛ませて動きを止めていなかったら、きっとこの倍は掛かっていただろう。


うん、ごり押し最強!


因みに噛まれた左手のダメージは、ヒーリング・デスフラワーの回復魔法でとっくに回復している。


「……え?なんでだ!?」


エリアボスが落としたドロップアイテムに目をやると、ある筈のない物が混ざっていて、俺は思わず声を上げてしまう。


そう、ある筈のないドロップ。


――そこには紫色をした魔法玉。


――Sランクの魔宝玉が転がっていた。

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