第61話 壁

「深淵なる闇の炎に滅しなさい!ダークフレイム!ブレード!」


クレアと分身2体の背面攻撃バックアタックが決まり、巨大なハエの姿をした179階層のボスがあっさり沈む。


因みに、ダークフレイムブレードなどと言うスキルは存在していない。

火属性の上級魔法と、闇属性の上級魔法を宿らせた魔法剣2連打に、クレアが技名を勝手につけただけである。


「179階層のエリアボスを瞬殺とか、とんでもない火力だねぇ」


クレアの超火力に、がっしりとした身体つきの浅黒い肌の女性――パラポネさんが感心した様に呟く。


現在、俺は聖なる剣のメンバーと行動を共にしていた。

彼女達にはいずれ、199階層でのエリアボス狩りをやって貰う事になっている。

今一緒に迷宮に潜っているのは、その下準備の為だ。


「ふ、これが闇の定めに生きる者の力よ」


その言葉に気を良くしたのか、ドヤ顔で――フードを被っているので顔は見えないが、俺には分かる――クレアが例の短剣を交差させるポーズを取り、痛いセリフを口走る。


「ふふふ。クレアさんは強いだけじゃなくて、ほんとユニークな人ね」


クレアに関しては、妄想癖の酷い痛い子と事前に伝えてあるので、アイリンさんはその奇行を軽く流してくれている。

他のメンバーも、生暖かい視線を投げかけてくれている感じだ。


「でも、本当に凄い強さよ。ユーリも、クレアさんも。レベルが200になると、皆あんなに強くなれる物なの?」


アイシスが興味深々と言った感じで尋ねて来る。


「……まあそうだな」


今の俺単体の強さになら、200までレベルを上げれば装備次第で並べなくもない。

何せスキルレベルも下僕も、まだまだ発展途上の状態だからな。


「ただまあ、流石にクレアみたいな火力は厳しいだろうけど」


クレアはユニークスキル大賢者の効果と魔法剣の相乗効果によって、火力が異常に強化されている。

レベル200で、今の彼女と同等の瞬間火力を叩き出せるクラスはないだろう。


ああでもそういや、アイシスには爆裂の腕輪があったな。

真・阿修羅爆裂拳なら話は変わって来る。

けど早々簡単に撃てるものではないみたいだし、瞬間火力の比較対象にするのは少し違うか。


――因みに、爆裂の腕輪はヘブンスオンラインにはなかったアイテムである。


リアル限定のこの装備は、かなり強力な物だ。

だからアイシスからその効果を聞かされた時は、正直驚かされた。

もしその剣士版みたいな腕輪があるのなら、是非とも手に入れたい所である。


「そっか……クレアさんって凄いんだ」


「まあな。言動はあれだけど、いわゆる天才って奴だ」


どちらかというと、天才ってよりチートって気がしなくもないが。


「ユーリが組んでるだけあるって訳ね」


「あ、ああ……まあな。あいつは強いから。だからあんなのでも組んでるのさ。頼もしいからな」


クレアと組む事になったのは才能云々ではなく、単に護衛さんに脅されたからに過ぎない訳だが……

まあそれを話す訳にもいかないので、適当に同意を返しておいた。


「そっか……ユーリ、私負けないよ」


唐突にアイシスが、意味不明の言葉を呟く。


負けない?

何の話だ?


「ん?どういう事だ?」


「私はクレアさんよりも強くなって見せるって事よ」


俺の問いに、アイシスが少し恥ずかしそうに答えた。


成程。

どうやら彼女も、マクシムの様に最強を目指す気の様だ。

そのための目標として、まずはクレアをロックオンしたって所だろう。


「そっか、頑張れよ」


高い目標を持つのは良い事だ。

惰性でダラダラとするよりも、絶対にいい結果を齎すからな。


だがアイシスも何れ知る事になるだろう。

最強に至る為に真に乗り越えるべき相手はクレアなどではなく、この俺だという事に。


そう!

やがて最強に至るのはこの俺だ!

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