第60話 全自動
ギルドマスターにお灸を据えた日の晩、アイシスと、その姉であるアイリンさんが俺の泊っている宿に訪れた。
昨日のお礼を言いに。
宿の部屋と言うのもあれだという事で、俺達は高級なレストランへと向かう。
勿論彼女達の奢りだ。
お礼を言われるのに、割り勘は流石にないからな。
「ユーリ君。聖なる剣を救ってくれた事、改めてお礼を言わせて欲しい。ありがとう」
「ありがとね、ユーリ」
個室の席に着いて注文を通すと、彼女達は改めて俺に礼の言葉を述べてくる。
優しい人物なら「気にしなくていいですよ」と返すのだろうが、俺は違う。
今の俺は自分の欲望に忠実だ。
「超盛大なお返しに期待してるよ!」
鮫トレ上等!
100倍返しでお願いします!
「ユーリ……」
俺の剛速球ドストレートな言葉に、アイシスが面食らった様な顔になる。
「なんて言うか、しばらく会わないうちにちょっと性格が変わった様な」
「男子三日会わざれば、刮目してみよって言葉があるだろ?まあそんな感じかな」
記憶の無かった15歳までと、廃人道を取り戻した俺とでは、どうしても違いは出て来る。
以前のピュアだったユーリは、もはや過去の人だ。
とは言え、一応フォローも入れておくか。
あんまり別人過ぎるのもあれだしな。
「まあお返しを期待するのは、それだけ聖なる剣に期待してるって事だから。いい風に受け取ってくれ」
我ながらナイスリカバリーだ。
たぶん。
「そう言われちゃうと、頑張らないといけないわね。ユーリ君には、仲間を救うためにエリクサーまで使わせちゃった訳だし」
「ほんっと、ユーリには大きな借りが出来ちゃったわね。どうやって返せばいいのやら」
どうやっても何も、俺が欲しいのはSランクの魔宝玉だ。
アイシス達には、是非ともそれを俺に貢いで貰たい。
とは言え、169階層をクリアしたばかりの彼女達にそれだけの力はないだろう。
恐らくだが、彼女達がSランクのドロップする199階層を攻略出来る様になるには、軽く年単位での期間が必要になって来る筈。
だから――
「もしよかったら、俺が聖なる剣のレベリングをしようか?」
「へ?」
俺が彼女達のレベルを上げて、その期間を短縮する。
以前と違って今の俺には、経験値を90%も落としてくれるオーガ先生(元値10万)とリッチー先生(元値8万)がいるからな。
たぶん一月とかからず、メンバー全員のレベルを200付近まで上げられるはずだ。
「それはまた……随分と唐突な申し出ね。それでなくても、私達は貴方に大きな借りがあるのに」
「折角なんで、遠慮せず限度額まで借りちゃってください。昨日みたいなPKのリスクを考えたら、レベルは高ければ高い程いいと思いますし」
「……」
俺の言葉に、アイリンさんは片手で口元を押さえ、考え込んでしまう。
今まで自分達で頑張って来たプライドもあるだろうし、知り合いとは言え、これ以上借りを作りたくないって気持ちもあるはずだ。
その上で、パーティーリーダーとして損得を天秤にかけているって所だろう。
「ねえ……凄く気になってたんだけど、ユーリのレベルって今いくつなの?」
「俺のレベル?200だよ」
「200!?いや……そうよね。あれだけ強いんだから、それぐらいあってもおかしくはないわよね」
アイリスが俺のレベルを聞いて一瞬驚くが、直ぐに納得がいった様にうんうんと頷いた。
「どうやってこんな短期間で、そこまでレベルを上げたの?」
「選ばれし死霊術師限定の、高速レベリング法があるのさ」
死霊術師の指輪様様だ。
これが無かったら、今頃まだ崖打ちでもしてた事だろうし、アイシスだって助けられなかった。
本当に神アイテムである。
「まあ具体的には――」
指輪の事は一応伏せつつ、下僕を使ったレベリング方法をアイシスに説明してやる。
「成程。それなら納得ね」
「そんな方法があったのね」
いつの間にか思考を終えたのか、アイリスさんも俺の話を聞いていた様だった。
まあ、考え事をしつつも人の話を聞ける器用な人という可能性もあるが。
「一応パーティーの皆に相談しないと決定は出来ないけど……レベリングの話、是非受けさせて貰う方向でお願いするわ」
どうやらレベルリングを受けてくれる様だ。
これを断られてしまうと、俺の計画に支障が出ていたので助かる。
「分かりました。但し、条件があります」
「条件?」
「はい。条件ってのは――」
条件と言うのは、聖なる剣に可能な限り199階層のエリアボスを狩って貰い、Sランクの魔宝玉を手に入れる事だ。
そして魔宝玉を入手した場合、エリクサーと交換する形で譲って貰う。
え?
なんでエリクサーと交換するのかだって?
俺の求めるSランクの魔宝玉の必要数は、5個や10個どころじゃないからな。
いくら大きな貸だとは言え、無償で大量に受け取り続けるのは無理がある。
そのうち絶対問題になる筈だ。
だから交換するのだ。
ある程度価値の釣り合うエリクサーと。
それなら仮に100個200個と交換しても、不満が出る事はないだろう。
こっちは貸しがあるので後払いにして貰い、アルティメットにならなかった物を彼女達に渡せばいいだけだしな。
まあゼゼコに依頼すると金がかかるので赤字にはなるが、アルティメットエリクサーを手に入れるための経費だと思えば、それ位安い物である。
「ユーリ君、本当にそんな条件でいいのかしら?」
「ええ、俺はSランクの魔宝玉が大量に必要なんで。よろしくお願いします」
「わかったわ。こちらこそよろしくね」
契約成立!
全自動、Sランク魔宝玉入手パーティーゲットだぜ!
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