第55話 PKK

「テメェ!よくも俺の仲間をやりやがったな!!」


それまで固まっていた男の一人が、ハッとなって怒鳴った。

そしてその剣先を俺に向ける。


「PKKだ。気にすんな」


何でもないかの様に、俺は首を竦めて軽く返した。


友人をふざけた理由で殺そうとしていたのだ。

仲間が殺されたからと言って、文句を言われる筋合いはない。

まあ剣を刺して倒れた男は、俺の足元でぴくぴくしているので、まだ死んではいないが。


とは言え、確実に致命傷だ。

放っておけばじき事切れるだろう。


人を殺すのか?


殺すよ。

俺は聖人君子じゃないからな。

どうしようもない屑を殺すのに躊躇は無いし、その事で心を痛めてやれる程優しくもない。


とは言え、アイシス達の目の前で問答無用で皆殺しは流石にあれなので、投降のチャンスを与える事にする。

まあPKは基本極刑だから、あんまり意味はない気もするが。

一応な。


俺は死霊の指輪に収納している下僕達を呼び出した。

オーガ3体にリッチー3体。

それと、回復用にヒーリング・デスフラワー2体だ。


「な!?オーガにリッチーだと!?どこから出てきやがった」


何もない所から急に現れた大型の魔物に、男達が動揺を見せる。


「俺の下僕だよ」


「テイマー……いや、アンデッドはテイム出来ねぇ。テメェ、死霊術師か」


「まあな?それで、どうする?オーガやリッチー相手に戦って死ぬか、武器を捨てて投降するか。好きな方を決めてくれ」


「はっ!死霊術師如きが粋がってんじゃねぇ!」


俺が死霊術師だと知り、男が馬鹿にした様に鼻で笑う。


死霊術師は、この世界だと不遇職扱いだ。

だから男の反応も分らなくはない。


だが、俺は高レベルのオーガやリッチーを倒している訳なんだがな……

奴にはそれを理解する知能はない様だ。


「オーガやリッチーだって、死霊術師の下僕なら大幅に弱体化してただの雑魚だ!ビビる必要はねぇ!」


まあ通常は能力が30%にまでダウンするからな。

その判断は自体は、間違っていないと言える。


但し……それは俺以外の死霊術師ならばの話だ。


鬼指導フォースドと死霊術師の剣の効果で、俺の下僕達は本来の90%の力を発揮する事ができる。

そのため、他の死霊術師が使う下僕とは、その強さに天地の程の差が生まれていた。


……下僕だけで戦っても、多分こっちが勝つだろうな。


「大体、糞弱い死霊術師なんざ……」


男が黒尽くめの男に目配せした。

次の瞬間、そいつの体が地面に沈んで消える。


シャドウワープだ。


「さっさと術師を殺せばいいだけだ!」


死霊術師は術師がやられると、ゲームだと下僕はそのまま消滅してしまう仕様だ。

まあ死霊術師の指輪を装備していれば、指輪に収納されて消滅は免れるが。

何にせよ、術師が死んだ時点で下僕が戦線離脱する事には変わりない。

だから俺を真っ先に狙って来たのだろう。


背後に気配が生まれた。


ぶっちゃけこの攻撃、来るタイミングさえ分かっていれば実はそんなに躱すのは難しくなかったりする。

何せシャドウワープは、絶対背後に出てくる訳だからな。

出て来るタイミングに合わせて前方にダッシュすれば、比較的簡単に攻撃をスカす事は可能だ。


ま、今回は敢えて受けるけど。


「ユーリ危ない!」


アイシスが、背後から襲われそうな俺に向かって叫ぶ。


大丈夫、心配無用だ。


何せ今の俺の筋力とHPは出鱈目に高いからな。

分身も出来ないレベルの暗殺者の攻撃如き、躱す必要すらない。


俺はアイシスにニッコリと笑いかけた。

心配ないアピールである。


「死ね!」


黒尽くめの男が、手にした短剣で背後から俺に斬りかかって来る。

刃物が首筋に触れた感覚はあるが、予想通り全く痛みはない。


楽勝……って、痛ってぇ!?


くそ!

クリティカル出しやがった!

がっでーむ!


黒尽くめが2発目でクリティカルを出したせいか、普通に痛かった。

だが顔には出さない。

まあそこまで痛かった訳じゃないからな。


「投降する気はないみたいだな」


俺が澄まし顔で振り返って、黒尽くめの方を見ると――


「ば、馬鹿な……今、確かにクリティカルが出たはずだ……それなのに……」


黒尽くめの男は驚愕に目を見開き、怯えた様に後ずさる。

まあ背後からの奇襲でクリティカルが出たら、同レベル帯なら普通は重傷物だからな。

それが全く効いてないって事は、それだけ実力差がある証拠だ。


「ベンズ!なに死霊術師如き仕留めそこなってやがる!それでもベーガスの一員か!?その程度の雑魚、さっさと始末しろ!!」


リーダーと思しき男が叫ぶ。

無茶苦茶いうな、こいつ。

今の一連の流れ見てなかったのか?


「くっ!」


怯えて後ずさっていた黒尽くめが、リーダーの命令に従って俺に突っ込んで来た。


背後からの奇襲でクリティカルを出し、ほぼノーダメージ。

そんな相手に正面から突っ込むなど、正気を疑う行動としか言いようが無い。

俺がこいつなら、迷わず逃げ出しているシュチュエーションだ。


にも拘らず突っ込んで来たのは、死霊術師という不遇職がバイアスになってしまったせいだろう。


今起こった事が、何かの間違いだとでも思ったのかもしれない。

もしくは、何らかのマジックアイテムで何とか攻撃を防いだと考えたかだな。

まあこっちの方が現実的か。


どちらにせよ――


「今度こそしねぇ!!」


俺は手にした死霊術師の剣を、突っ込んで来た黒尽くめ相手に横に薙ぐ。

手加減無しのその一撃は、何の抵抗もなく相手の体を真っ二つに切り裂いた。


上半身は吹き飛び、下半身は血しぶきを上げながら崩れ落ちる。


ちょっと派手にやりすぎたかもしれん。

おもっくそ血しぶきがかかっちまった。


――クレアから借りている宵闇のローブとウィングブーツに。


後で絶対文句を言われそうだ。

ま、やってしまった物は仕方がない。


「ば、馬鹿な。ベンズが一撃だと?死霊術師如きに……そんな……」


振り返ると、他の奴らは唖然とした表情で此方を見ていた。

アイシスもハトが豆鉄砲を喰らった様な顔をしている。


「こう見えてもレベル200なんでね」


「200……だと?死霊術師が一体どうやってそんなレベルに……」


「企業秘密だよ。まあ投降する気はなさそうだし、遠慮なく殲滅させて貰うぞ」


オーガとリッチー達に敵の殲滅を。

ヒーリングデスフラワーには怪我人の戦士っぽい女性と、アイシスの回復を俺は命じた。


「ぐああ!!」


オーガの握る石剣の一撃を、リーダーの男が手にした剣で受け止めようとする。

だがパワーが違う。

その一撃はそいつの体を悠々と吹き飛ばした。


「この死霊共やばいぞ!逃げろ!!」


俺の下僕が通常ではありえない強さと理解して、他の奴らは慌てて逃走を図り出す。

二度と関わらないのならそれでもかまわないのだが、この手の輩はどんな形で復讐して来るか分かった物ではない。


――全員、確実に始末させて貰う


「ぎゃあ!?」


「ぐわあぁ!!」


俺はウィングブーツの性能をフルに生かし、逃走を図る奴らに追いついて剣を振るう。

3人程切った所で振り返ると、残りの3人はオーガ達によって制圧されていた。


「ま、取りあえず終了だな」


俺は死霊術師の剣を鞘に納めた。

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