第48話 駆け足
トーラの町の少し東に、迷宮への入り口はあった。
岩山をくりぬいた形の、要塞の様な建造物。
その奥が迷宮への入り口となっている。
「明るいわね」
要塞内部は、光源もないのに明るい。
その事にクレアは驚く。
「ああ。まあ神や悪魔の遺した物だって言われてるからな、迷宮は」
一言でいうなら、不思議パワーである。
要塞だけでなく迷宮内も同じ感じなので、光源を用意する必要はない。
「闇の波動を感じるわ」
要塞に入って真っすぐに進むと、広間の様な場所へと出る。
広間の中央には、巨大なクリスタルが浮かんでいた。
それを見て、クレアが小さく呟く。
戯言を。
もちろん闇の波動など出ていない。
あれはワープクリスタルと呼ばれる物だ。
名前からも分る通り、転移用のオブジェクトである。
飛べるのは10階層区切りに設置されてあるワープクリスタル間のみで、それも自分が行った事のある階層までと決まっていた。
なので、初挑戦の人間がいきなり150階層にチャレンジとかは出来ない。
どんなに実力があっても、自分の足で地道に進んで行くしかないのだ。
俺はクレアの呟きをスルーしつつ、広間最奥にあるスロープへと向かう。
そこを下った先が、迷宮の第一階層となっている。
「クレア。低階層は魔物を無視して駆け抜けるぞ」
迷宮内はかなり広くできている。
道も知らず、魔物の相手をしながら慎重に進む様な状態だと、それこそ一つの階層を抜けるのに半日――いや、下手をすれば丸一日を費やしかねない。
当然、そんな無駄な時間をかけるつもりはなかった。
低階層に出て来る魔物など今の俺達の敵ではないので、無視して突っ切り、
これなら1時間とかからず、次の階層へと進めるだろう。
「準備完了」
オーガを死霊の指輪から呼び出し、
そして
その後、死んだ(まあ初めっから死んでるけども)オーガを蘇生させ、再び指輪へと収納しておく。
低階層は走り抜けるだけなので、護衛など不要だ。
「ふふ、ここから私達の伝説が始まるのね」
「おう、そうだな」
俺は元気よく返事する。
クレアはどうか知らないが、此処から俺の最強伝説が始まるのは間違いないからな。
まだまだスタート地点でしかないが、必ずやレジェンド装備を集めきってやるぜ。
「んじゃ、行くぞ」
第一階層は、岩壁剥き出しの洞窟の様な場所となっている。
迷宮なんて呼称ではあるが、それっぽくなるのは100階層を越えてからだ。
出て来る魔物は、雑魚中の雑魚さん事、ゴブリン。
「ぎょべぇ!!」
久しぶりに見た姿に思わずノスタルジックな気分になり――そんな前じゃないけど。
無視する予定を急遽変更し、正面から突っ込んでグーパンする。
相手は抵抗する間もなく、その一撃で頭部が吹き飛び昇天してしまう。
うん、強くなった。
最初は石ころを投げて弱らせ、そこから剣での激闘で勝利したかつての強敵。
それが今や、パンチ一発であの世行である。
頑張ってレベルを上げた甲斐があるという物だ。
そんな感慨深い物を感じつつも、俺は足を止める事無く駆け抜ける。
「魔物は無視するんじゃなかったのかしら?」
並んで走るクレアが聞いて来る。
ユーリだけ狡くない?
と言った感じの口調だ。
「ゴブリンは俺にとって多少因縁のある相手でね、まあ、初回だけだから勘弁してくれ」
「ふ、これは貸しよ」
「はいはい」
軽口を叩いている内に、第一階層を抜ける。
所用時間は15分ぐらいだろうか。
迷宮が実際より狭いというよりも、俺達のペースが想定より早かったというのが正解だろう。
このペースなら、2-3日で百階層くらいまでは行けそうだ。
「そういや、少し気になってたんだけど……ステータスの割にクレアって足早いよな?なんか装備してるのか?」
俺は第二階層を駆け抜けながら、クレアにちょっと気になっていた疑問を投げかける。
想定以上のハイペースで進められている最大の要因は、クレアの足の速さにあった。
ステータス的に劣る彼女だったが、走る速度は俺と比べてもそこまで遜色がない。
基本的に進行は足の遅い方に合わせる事になるので、彼女の足が遅かったらもっと時間がかかった事だろう。
問題は……何で足がそんなに速いのか?
だ。
暗殺者クラス特性である移動速度アップがあるとは言え、大幅なステータス差を引っ繰り返すだけの効果は流石にないはずだ。
だから俺は、彼女が何か特殊な装備をしているのではないかと結論付けた。
黒曜石の短剣なんて無駄に高価な武器を装備している訳だし、他にもきっといい物を装備してるだのろう、と。
まあとは言え――
「ふ……私の足には、闇の翼が宿っているのよ」
やはりと言うかなんというか、真面な答えは返って来ない。
足と言っているので、彼女の履いている黒のブーツの効果と言うのだけは分かったが。
まあ、後で覚えていたら護衛さんの方に聞いてみるとしよう。
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