第47話 寄付

「先生、これを」


説教を喰らった後、俺は古巣に来た目的の一つを実行する。


一つは当然、挨拶をする事だ。

そしてもう一つは、院に対する寄付である。


子供達はよく食べるし、よくやんちゃして物を壊したりする。

とてもではないが、国からの助成金だけでは賄いきれないとい言うのが実情だった。


だから卒業生は皆、院に対して寄付を行っている。

これがあるから、ここはギリギリ回っていると言っていい。


俺は金貨の入った革袋を、寄付として院長先生へと渡す。

中には金貨が200枚ほど入っている。

これだけあれば、老朽化した設備なんかの取り替えも出来たりするはずだ。


「こんなに大金を……一体どうやって?」


院長先生が中を確認し、信じられないといった表情で俺を見る。


「ちょっと大きな依頼があったんで、そこで得た収入の一部です」


そう。

これはクレアの面倒を見るという、大きな依頼の報酬(の様な物)だ。

嘘は言っていない。


「ユーリ、君は何か無茶な真似をしているんじゃないか?もしそうなら……」


院長先生達が心配そうな顔をする。

俺が何か無理をしていると思っているのだろう。


もちろんそんな事は無い。

俺は常に、全力で安全マージンを確保して行動しているからな。

日本人らしく、安全第一である。


「先生、信じられないかもしれないですけど。俺のレベル……今200なんですよ」


「レベル200!?いくら何でもそれは……」


1年前まではレベルが15しかなかった鼻たれのガキが、1年ちょっとで200まで上がる。

普通に考えたらあり得ない事である。

口で言っただけじゃ信じられないだろう。


だから、物証を見せる事にする。


何を見せるのかって?

もちろん、俺の下僕だ。


「先生。ちょっとしもべを呼び出しますね」


そう断ってから、俺はオーガとリッチーを死霊の指輪から呼び出した。

両方とも、かなり強い事で有名な高レベルモンスターだ。

院長先生夫妻は若い頃冒険者をしていたそうなので、多分知っているはず。


「これは……まさかオーガか!?」


「アンデッドの方は、もしかしてリッチーなの?」


「両方俺が自分で倒して使役しています」


下僕達はさっさと指輪へと収納する。

オーガもリッチーもかなり大柄な魔物で、こいつらがいると院長室が狭苦しくなってしまうからな。


「レベル200ですから」


俺はドヤ顔でキメる。


「驚いたよ。まさかこんなに短期間で、ユーリがこんなにも強くなって帰って来るなんて。夢にも思わなかった事だ」


「ふふ。男子三日会わざれば、なんて言葉もあるけど。正にそのお手本みたいなことね。ひょっとして、クレアちゃんのお陰かしら?」


マーサさんがクレアの方を見る。


まあ個人の力でというのは、余りにも荒唐無稽が過ぎるからな。

誰かの協力を得て、と。

そう考えるのは至って自然な事だ。


「ええ、まあそんな所です」


俺はその話に乗っかり、クレアの力を借りたという事にしておく。

まあ彼女のお陰でレベル上げ期間を大幅に短縮できた訳だし――正確には護衛さんのお陰だが――あながち嘘という訳でもない。


「ふ、闇の導きよ……」


クレアは自分の名前が出たせいか、顏の前に手をやる謎のポーズをとった。

こいつは放っておくとしよう。


「まあという訳で……それは危ない橋を渡ったり、犯罪で得たお金じゃないんで安心してください」


「そうか……そう言う事なら、喜んで受けとらせて貰うよ。ありがとう、ユーリ」


その日は、孤児院の皆との久しぶりの交流を楽しみ、夜は空いている部屋に止めさせて貰った。


クレア?

もちろん挨拶が終わった時点で院から追い出したよ。


クレアがヴェルヴェット姓を名乗ろうとしたせいで、俺は院長先生達に怒られてしまった訳だからな。

そこをついたら、流石に彼女も素直に引き下がった。


ふ……俺の勝ちだ!

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