第49話 横殴り・シーフ
迷宮踏破は順調に進み、3日程で90階層まで到達する。
ここまで倒して来た魔物は、最初に遭遇したゴブリンを除けば10階層ごとにいるエリアボスだけだ。
それ以外は全部無視して突っ切っている。
レベル100以下の魔物は、200レベルに到達している俺やクレアの敵じゃないからな。
で、90階層から99階層も問題なく突き進み、100階層に辿り着いた訳だが……
「先客がいるな」
100階層のエリアボスは、黒騎士と呼ばれる全身が黒のフルプレートメイルで覆われたアンデッドナイトだ。
黒騎士はスケルトンナイトを15匹程従えており、90階層のエリアボスと比べて一気に強さが増していた。
そのため、99階層まで余裕を持って抜ける事が出来るパーティーでも、こいつで足止めを喰らう事は多い。
まあ、所謂一つの壁という奴だな。
広い円形の、闘技場の様な空間。
そこが戦闘フィールドになっており、エリアボス対冒険者の戦いが繰り広げられている。
冒険者の数は15人程。
1パーティーとしては多めなので、100層のエリアボス攻略の為に複数のパーティーが組んでいるのだと思われる。
「こりゃ時間がかかりそうだ」
エリアボスは基本自動回復を持っている。
そして取り巻きの雑魚モンスターは、数が減ると一定周期で復活する様になっていた。
そのため、相手を一気に押し切れない低火力なパーティーだと、倒すまでに相当の時間がかかってしまう。
そして目の前で戦っているパーティーは、防御重視の長期戦タイプだった。
編成は、盾役である重装備の騎士が4人。
攻撃役は魔法使い系が2人に、近接アタッカーが3名。
後はヒーラーが5人に、召喚士が1人といった感じだ。
明らかに盾とヒーラーが過剰な、安全最重視の編成である。
まあゲームと違って死んだら終わりな世界なので、これは仕方ない事なのかもしれないが。
「取り敢えず、終わるのを待つか」
俺は通路に座り込み、素直に討伐を待つ事にした。
「私達は参加しないのかしら?」
冒険者としての常識を知らないクレアが、馬鹿な事を訪ねて来る。
当然それはありえない行動だ。
「そんな真似したら、確実に揉める」
相手から救いを求められている訳でもないのに戦闘に参加するのは、ゲームでなら横殴りと言われる行為に当たり、大抵のゲームでタブーとされていた。
それはこの世界でも同じ様な物で、勝手な参戦は獲物の横取りと見なされ、下手をしたら、相手から攻撃を仕掛けられかねない。
「向こうも俺達には気付いているみたいだし――」
さっき召喚士と目が合ったので、俺達には確実に気付いている。
「やばそうになったら、向こうから声をかけて来るだろ。そうでない以上、待機だ」
「ふ、仕方ないわね」
暇つぶしに、戦闘を観戦しておく。
メンバーはだいたい、20代中ほどの年齢層帯だ。
動きを見る限り、サブクラスまで取得している人間は少なそうである。
戦術は――
3人の盾がスキルで雑魚のターゲットをとり、1人が黒騎士の正面に立つ。
雑魚を抱える盾は1人でスケルトンナイト5体抱える事になる訳だが、当然それは無理がある。
そのため、近接アタッカーとヒーラーが1人づつ付く形で捌いていた。
因みに、ヒーラーは回復に専念していて攻撃には一切参加していない。
ボスとその取り巻きには特殊な耐性が付くので、浄化による即死は絶対に決まらず。
光や神聖属性の魔法での攻撃は、特効があるのでダメージこそ稼げるが、アンデッド系はその手の属性攻撃を喰らうとターゲットを其方へと変えてしまう習性がある。
そのため、下手にヒーラーが手を出すと安定に問題が出てしまう。
それを避けるため、このパーティーのヒーラーは回復に専念する事を徹底しているのだと思われる。
「召喚士は100行ってないみたいだな」
エリアボスである黒騎士の相手は、盾と魔法使い二人に、召喚師と回復役の二人だ。
召喚士のはレベルは90代。
それは幻想熊と幻想狼を召喚している事から分かる。
もしレベルが100を超えているなら、もうワンランク高い幻獣を召喚している筈だからな。
もうちょい頑張ってレベル上げしてから挑めよ。
そうすれば楽になるのに。
そう思わなくもないが、まあそれは余計なお世話だろう。
15人で討伐と考えると、一応90代なら火力としての貢献は十分出来ている方だろうし。
「まあそっちは良いとして、問題は魔法使いだな……」
こっちはさらにレベルが低いと思われる。
さっきから攻撃手段に、下級魔法が頻繁に混じるのが目立つ。
ケチらなければならないMP具合なのか。
それとも、習得できている魔法の数が少ないので――クールタイムの都合上――回せないのか。
どちらにせよ、完全にレベル不足だ。
こりゃ下手したら撤退コースだな?
「一気に畳みかけるぞ!」
そんな風にぼーっと眺めていたら、召喚士が号令を発し、急にパーティーの動きが変わる。
それまで雑魚モンスターを盾役と一緒に捌いていたアタッカーが離れ、黒騎士に突っ込んでいく。
どうやら、一気に押し切るつもりの様だ。
この場合、大変なのは雑魚を押さえる騎士達だろう。
単独で抱えられるのなら、初めっからそうしている筈だからな。
「ふむ……」
畳みかけると言えば聞こえはいいが……これ、失敗したら死人出ないか?
少々強引な動きに、少し心配になる。
一応万一に備えて、用意しておくとしよう。
流石に目の前で死人が出るのは良い気がしないしな。
「クレア。いつでも駆け付けられる準備をしといてくれ」
座り込んでいた俺は立ち上がり、いつでも飛び出せる用意をする。
「ふ……闇に潜む身だけれど、哀れな子羊達を救うのも悪くはないわね」
クレアも短剣――ダークシスターズを手に取り、いつでも飛び出す準備をする。
まあそんな感じで、いつでも救援に駆け付けられるように構えていたのだが――
「どうやら、余計な心配だった様だな」
黒騎士が崩れ落ちた。
それに伴い、配下のスケルトンナイトたちも消滅する。
かなりギリギリだったが、盾役が崩れる前にパーティーは見事に勝利を収めた。
あの召喚士、中々いい判断力の持ち主の様だ。
勝利を喜び合うパーティーを見つめながら呟く――
「はよドロップ拾えよ」
――と。
激闘を制して嬉しいのは分かる。
だが、ドロップアイテム放置状態だと迂闊に近づけないのだ。
下手に近づけば、ドロップ泥棒と勘違いされかねない。
はよ拾え。
はよ拾え。
はよ拾え。
はよ拾え。
はよ拾え。
はよ拾え。
はよ拾え。
……いいからはよ拾えよ。
俺は何時までも喜び合うパーティーを見ながら、心の中で延々そう呟き続けた。
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