第45話 大成功

死霊の森で無事リッチーを僕にした俺は、クレアを連れて故郷の街へと向かう。

その途中、立ち寄った街の宿で一泊したら――


「戦争?そりゃまた随分物騒な話ですね」


なんか護衛さんがやって来て、急に戦争が始まりそうだと俺に告げた。

東のガガーン帝国が、隣国のカサノバ王国に攻め込む準備が着々と進んでいるらしい。


ゲーム内でも戦争なんかのストーリーはあったが、それは基本攻城戦関連の話である。

大人数でのPVPは嫌いじゃなかったので、俺も良く参加していた。


まあ最終的には、俺が姿を現すだけで城持ちが放棄する事態になってしまい、つまらなくなったので参加しなくなったが……

無人の城制圧したって、面白くもなんともないからな。


ネットの専用掲示板では、よく俺がどこどこに出現!的な事が書き込まれ。

まるで台風扱いだった事を思い出す。


「心配ないとは思うが、間違っても近づくな」


戦争が起きれば、この国にも多少は影響が出るだろう。

隣国だしな。


だが近づきさえしなければ、基本問題ない。

護衛さんが態々警戒を促したのは、これから向かう生まれ故郷付近の迷宮が、カサノバ王国との国境近くに位置する為だろうと思われる。


「勿論。誰も好き好んで戦争なんかに首は突っ込みませんよ」


ゲームならともかく、リアルで人殺しを進んでする気にはなれないからな。

もちろん殺されるのも嫌だし。


「ならいい」


「今日はその忠告にだけ来たんですか?」


迷宮へクレアを連れ込む――この言い方だと嫌らしく聞こえるな。訂正――

同行する許可はもうとってある。

護衛に関しては問題ないそうだ。

流石、カンストは伊達じゃない。


「これをお前に渡しておく」


そう言うと、護衛さんが革袋を俺に手渡して来た。

中を確認すると――


「エリクサーですか」


――虹色の液体の入った瓶が5本入っている。

エリクサーだ。


エリクサー。


神秘の霊薬と言われているポーションで、飲むとHPとMPが瞬時に全快する効果を持っている。

連続使用制限時間クールタイムが長いのでがぶ飲みは効かないが、回復アイテムとしては最高級品だ。


その製作にはSランクの魔宝玉を必要とする為、お値段はかなり高い。

ヘブンスオンラインだと、一つ80M(メガ)前後――8千万円――ぐらいしていた。

この世界だとSランク魔宝玉の産出量がすくなそうなので、きっともっとするだろう。


それを5本もポンと用意するとか、流石侯爵家である。


「お嬢様の護衛は万全を期すつもりだが、一応、万一の保険として渡しておく」


「了解」


使うような事態になる狩りをする気は更々ないが、くれるというのなら拒む理由はない。

有難く受け取らせてもらう。


「あ、そういや前から聞きたかったんですけど」


「なんだ?」


「隠密スキルって、どうやって維持してるんです?」


護衛さんや、他の二人――クレアの護衛は全部で三人らしい。他は見た事ないけど――は、常に姿を消して行動している。

レベル10の隠密スキルを使用しているのだとは思うが、透明化は維持中結構な速度でMPを消費してしまう。

いくらレベルがカンストしていたとしても、常時使用と言うのは現実的ではなかった。


普通に考えるなら、何らかのマジックアイテムだ。

それも、俺が知らない。


「……特殊なマジックアイテムだ。MP消費を軽減するタイプのな」


MP消費軽減か……


今の俺なら、レベル上げ用のMPは十分に確保出来ているので、消費MPの軽減は必須ではない。

だがないより、あった方がいいのは確実だ。

まあ余裕があったなら、その内手に入れに行くのもいいだろう。


そう思い、俺は護衛さんに入手方法を尋ねた。


「成程。それって、どうやって手に入れるんです?」


まあ理想は、護衛さんからただで入手する事だ。

が……流石に強力なマジックアイテムを、そうぽんぽん譲ってはくれないだろう。


「Sランクの魔宝玉を用意して、ゼゼコへ依頼すればいい。アサシンリングという名だ」


「名前からして……」


「暗殺者専用の装備だ。お前が身に着けても意味はないだろう」


ちっ、暗殺者専用かよ。

じゃあいらないな。

一応クレアなら使えるんだろうが、あいつの為にSランクの魔宝玉を消費してまで用意する気にはなれない。


迷宮で手に入れるSランクの魔宝玉は、全てゼゼコの店でエリクサーの精製に回すつもりだからな。


エリクサー精製には二つの方法があった。

錬金術師クラスの人間に精製してもらうか、ゼゼコに依頼して作ってもらうかだ。


どちらも必要となる素材は同じ。

ただしゼゼコは強欲なので、錬金術師に頼むより遥かに高額な依頼料――金貨200枚(2千万円位)――を取られる事になる。


値段だけで言うなら、間違いなく錬金術師に依頼した方が安上がりだ。

だが俺はゼゼコに依頼する。


何故か?


理由は簡単だ。

ゼゼコに精製して貰った場合、1%程の確率で大成功が発生するからである。


そして大成功時に手に入るのが――俺の求める、アルティメット・エリクサーだ。


レジェンド装備を落とすボスは、これが無いと話にならないからな。

Sランクの魔宝玉を集めて、ガンガン依頼していかないと。


「用件が他にないのなら、私は行くぞ」


そう言い残して、護衛さんは去って行った。


「明日も早いし、とっとと寝るか」


死霊の森の辺りから、生まれ故郷の街へは馬車で3週間ほどの距離がある。

以前は馬車で移動したが、今回は徒歩だった。

正確にはダッシュだ。


レベルが上がり、ステータスが上がった今、馬車に乗るより走った方がはるかに速いからな。

10日もあればつくだろう。


クレアはちょっと不満そうだったが、そんな物は知った事ではない。

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