第40話 デスソード

ゼゼコが指を鳴らすと、彼女の周囲に妖精達が姿を現した。

目の前の巨豚とは違う、普通の小人サイズの可愛らしいタイプだ。

その妖精達は素材を手に取ると、空中に消えていく。


「完成までは1時間ほどかかるわ。待ってなさい」


そう告げると、ゼゼコは金貨を両手いっぱいに抱え、にまりと笑って姿を消す。

なんか絵面的に持ち逃げされた感が凄いが、流石にそれは無いだろう。


「1時間か……」


ゲームだと一瞬で完成するのだが、現実だと製作時間が必要な様だ。

ま、当たり前か。


「素直に待つかとするか」


流石に此処でレベル上げを始めるのもあれだからな。

俺はその場に胡坐をかいて、腰に下げていた水筒を外して水を飲む。


「なあクレア」


「何かしら?」


「死霊術師の剣が手に入ったら、俺は近くの迷宮を攻略しにいくつもりなんだけど……」


此処から一番近いのは、トーラ――俺の育った町の近くにある迷宮だ。

迷宮には、武器錬成やアルティメットエリクサー生成の為の宝玉と資金集めが目的で向かう事になる。


精錬による武器オプションというプラスが出来たとはいえ、アルティメットエリクサーが無しでは、流石にレジェンド装備を落とすボスは倒せないだろうからな。

しこしことその下準備をしていかなければならない。


「クレアはどうする?」


絶対ついて来るとは思うが、一応確認だけしておいた。


「ふ、愚問ね。私達は二人で一人のバディ。貴方が迷宮に挑むというのならば、それは私にとってもチャレンジとなるわ」


これで本人の意思確認はとれた。

後はまあ、護衛さんだな。

迷宮内で姿と気配を殺しての護衛は大変だろうし、事前確認はしておかないと。


流石にダメ出しは出されないとは思うが……


「ユーリ、貴方に一つ聞きたい事があるの」


「ん?なんだ?」


珍しくクレアが真剣な口調で問いかけて来た。

何でこんな場所知っているのかとか、そう言った系の質問だろうか?

だとしたら、厨二っぽい言い回しで煙に巻いとけばいいだろう。


「武器の名は決まっているのかしら?」


そっちかよ。

果てしなくどうでもいい質問だった。


「いや、名前とかは決めてない」


「ふ、だったら私が最高の名を送ってあげるわ。そう、至高の武器に相応しい名を!」


こいつ、本当に武器に名前つけるの好きだな。

まあ別にいいけど。

それで満足するなら付き合ってやるとしよう。


「ああ、頼むよ。で、どんな名前なんだ?」


「ふふ、それは武器が出来てからのお楽しみよ」


別に、勿体付けず今すぐでもいいんだが。

まあまだ決まってないって線が濃厚か。

見た目も判明していない――俺は知ってるけど――しな。


「ああ、それと。迷宮の前に下僕のアップグレードしておくから、一週間ほど休みな」


今の下僕は、ヒーリング・デスフラワー――ヒーラーが八体だ。

これを迷宮攻略用にタンク兼近接アタッカー三体、遠距離アタッカー三体、ヒーラー系四体に調整する予定である。

ま、ちょっとしたパーティー編成見たいなものだ。


「ふ、水臭いわね。私達はバディよ。遠慮せず頼っていいのよ」


「ふむ……」


クレアの魔法剣六連打(両手短剣+分身二体)は、火力としてはかなり頼りになる。

同レベル帯なら確実にぶっちぎりだろう。

そう考えると――


「まあそうだな。悪いけど、手伝ってくれ」


本当は護衛さんの手を借りるつもりだったのだが、まあ今のクレアなら大丈夫だろう。


「任せてちょうだい」


「ただ、俺の指示にはちゃんと従ってくれよ」


戦ってる最中に「危ない」とか言いながら急に乱入してきて、貢献度50%以上取って行かれると腹が立つからな。

そこは徹底しておかねば。


「ふふ、仕方がないわね。貴方の指揮者としての手腕を見せて貰うとしましょう」


「ああ、うん。まあ期待していてくれ……」


別に指揮能力が問われる様な事はしないんだが、クレアとのやり取りは適当に流すに限る。


「それで、どういった者達を支配するつもりなのかしら?」


「ああ、それは――」


狩る魔物と、その順番や手順を軽く説明する。

そうこうしている内に1時間が経ち――


「またせたわねぇ」


ゼゼコが戻って来た。

その手には、柄の部分に髑髏の意匠が施されている黒い剣が握られている。

死霊術師の剣だ。


俺が剣を受け取ると、クレアが唐突に叫んだ。


「その剣の名はデスソードよ!」


と。

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