第36話 魔法剣士

魔法剣士エンチャンター

それは魔法を剣に宿らせ、攻撃として用いるクラスだ。


ヘブンスオンラインでサブサブクラスとして選択できる職業なのだが――選択する者は少ない。


ぶっちゃけ、強さを求めるなら選択肢に入らないクラスだからだ。

これを選ぶのは、魔法剣士という名にロマンを求めた人間だけである。


色々と残念なポイントが多いんだよな。

このクラス。


魔法剣はその名の通り、自分の魔法を剣に付与して戦うクラスだ。

かけた魔法は消耗型で、一回攻撃する度に再度チャージしなければならない訳だが……


‟当然魔法には詠唱が必要になる”


これが残念ポイント其の一だ。


魔法の詠唱は攻撃を受けると停止してしまう。

敵と正面切って戦いながら、攻撃を一切受けずに詠唱を完了するというのはかなり難しい。


ただこの問題点は、魔法クラスならある程度カバーできなくもなかった。

メインクラスの魔法系スキルの中には、詠唱中断に対する耐性が基本織り込まれているからだ。


ただまあ、純粋な後衛職が魔法剣士を選ぶ事はまずない。

近接戦闘能力が無い時点で、剣に魔法を宿らせて戦うという選択はありえないからな。


さて、次は残念ポイント其の二だ。


魔法剣士は付与のスキルを習得するだけで――


‟魔法自体を覚えない”


そう、魔法を武器に付与する事に特化したクラスの癖に、このクラス自体は何の魔法も覚えないのだ。

そのためそれ以外の方法で魔法を習得していないと、魔法剣を扱う事は出来なかった。


もはや欠陥としか言い様が無い仕様だ。

もしそれを知らずに純近接でそれを選んだら、偉い事になる。


ま、死霊術師を長期間放置していた挙句、急に最強職に祭り上げる様な運営だからな。

この程度は平常運転だ。


え?

お前そんな雑なゲームを廃プレイしてたのかだって?


うん、してた。

世の中不思議な物で、逆にそう言うゲームの方が面白かったりするんだよな。

実際、プレイ人口はそこそこ居た訳だし。


そして残念ポイント三。


それは威力が斬撃+込めた魔法である点だ。

態々剣に付与して攻撃しても、ダメージは足し算にしかならない。

それなら魔法は魔法でぶっぱして、その後斬りかかればいいだけの話である。


そう‟纏める必要性が殆どない”のだ。


まあ一応、魔法付与時は斬撃にも属性が乗るので全く無駄とは言わない。

だが詠唱の都合で、属性付きの攻撃は間隔がどうしても開いてしまう事になる。

それなら普通に属性付きの魔剣を使った方が、遥かに効率は良い。


バラバラの弱点を持つ敵を攻撃する時に使い分けられる?


武器など持ち替えればいいだけの事。

腰に必要な物を、何本か刺してればいいだけだし。


……ああ、でもそうか。


ヘブンスオンライン内だと廃人――俺を含む――が魔剣類を量産しまくってたけど、ゲームと違ってこの世界だと殆ど流通してなかったな。

そう考えると、そこそこ有効ではあるのか。


ゲームと現実の差異って奴だな。

まあ何にせよ、だ。


後衛系は近接能力が無いから最初から論外。

前衛系も魔法が使えない奴は選択肢に入らないし、魔法と剣が使えるクラス自体かなり限られる――サブクラスで魔法系を選ぶ前衛は少ないので。


上記の理由から、ゲーム内で魔法剣士が趣味以外で選ばれる事は稀だった。


けどまあクレアなら――


短‟剣”による近接戦闘が可能で、かつ、魔法の能力も高いので適正は高い。

大賢者のお陰で魔法の詠唱速度も速く、中断耐性もある。

それに暗殺者の持つ、背面攻撃時ダメージが跳ね上がるスキルがあるのもプラス要素だ。


これは当然魔法にも乗るので、魔法剣、シャドウワープからのバックアタックで大ダメージを期待出来た。

魔法ぶっぱじゃ、背面ダメージはとれないからな――魔法詠唱中にスキルは使えないため。


そしてやはり一番大きいのが、拘りのせいで使用制限されている賢者の魔法を使わせられるって点だ。

攻撃自体は短剣で行うので、彼女も文句はないだろう。


クレアの魔法は絶対使わせないと損だ。


「成程。悪くないわね」


俺が魔法剣士の説明をすると、クレアがニヤリと口元を歪めた。

どうやらお気に召した様だ。

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