第33話 警告

クレア様に見つからない様、常時姿を消し、私は遠くからその様子を見守る。

弟子の二人は現在休憩中だ。


「死霊術師か……」


クレア様は身分も知れない死霊術師に、パーティーを持ちかけた。

ぱっと見、それは冴えない感じの優男にみえる。


まさかこの男が、世界を救うプレイヤーの役割を担う人物なのだろうか?

メインストーリーのキーキャラであるクレア様が持つ、予言というスキルの事を考えるとその可能性は高いと言えるだろう。


この世界では味噌っかす扱いではあるが、ヘブンスオンラインにおける死霊術師は最強のクラスと言われている。

つまり、相手の男には伸びしろがあるという事だ。


死霊術師と言えば……


脳裏に『King・Yr』という名が思い浮かぶ。


ヘブンスオンラインで最強は誰かと聞けば、100人が100人ともこう答えるだろう。

『King・Yr』と。


それ程までにヘブンスオンラインにおいて、極限レイドと呼ばれた彼の強さは規格外だった。


レジェンド装備をドロップするボス3体を、個人で独占。

一対一のPVPであるオリンピアでは、不倒の連勝記録を叩き出し。

集団PVPである攻城戦においては、彼が参加した時点で城持ちギルドがその防衛を放棄するという逸話まである。


そして極めつけは――


彼の独占に対抗すべく、当時の最強ギルドが集まってできた連合。

極限レイド討伐連合との戦いだ。

総勢1000名を超える廃人達を中心とした巨大連合を1人で討ち破ったのは、もはや伝説レベルと言っていいだろう。


噂によると、その戦いに敗れた廃連中の多くがヘブンスオンラインを引退したと言われている。


そんな無敵の『King・Yr』だが、ある日を境にぱったりとその名を聞かなくなってしまう。

恐らく引退したのだろうが、一部ではやりすぎたせいで運営にアカウント停止されたんじゃないとかという様な噂も流れていた。


それ以来彼の名を聞く事は……


いや、待てよ。

そう言えばあったな。


頭の中から古い記憶が蘇って来る。

そう、彼の名はその数か月後のアップデートで再び話題になったのだ。


――最新のストーリーに組み込まれた事で。


メインストーリーにおける邪神復活は、ペェズリーという死霊の手で引き起こされるという流れである。

そしてその中に、『King・Yr』の名が出て来のだ。


強すぎる彼が、ヘブンスオンラインの世界に巻き起こした破壊と混乱。

その負のエネルギーをペェズリーが利用し、邪神復活に用いたと。


ストーリーにその名が出た事で、『King・Yr』は運営の用意したゲームマスター的な存在だったのではないかという噂もたったが……まあそれは無いだろう。


ゲームを盛り上げるためにしても、ボスの独占やそれ以外の行動などは明らかやり過ぎと言える物だった。

実際、その事で多くの廃人が引退したと言われている訳だからな。


恐らくゲーム内でのネームバリューから、運営が勝手にその名を使用したというのが正解だろう。


勝手にプレイヤーの名を使った良し悪しはともかく、当時のプレイヤー達にとってその名は絶大だった。

そのため、「全部あいつのせいかよ」と感情移入しやすかったのは確かだ。


「ま……何の関係もないだろうがな」


死霊術師の男が席を立ち、トイレへと向かう。

私はその後を付けて、彼に脅しをかけておいた。


「我々はいつでも見ているぞ」と。


クレアお嬢様に変な気を起こさない様、釘をさす為だ。

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