第15話 バディ

「終了!」


オーク討伐を完了。

僕にしたのは4体だけに留めている。

理由はビックトードの麻痺攻撃が、思った以上に便利だったからだ。


たかが5%。

されど5%ってやつである。


短期決戦気味のガチる戦いを強いられたからこそ、俺はその恩恵を強く実感させられている。


「ふふ、私達にかかれば、オーク如き物の数ではなかったわね」


たいして貢献もしていない癖に、態度と言葉だけは一丁前だ。

厨二レディー事、クレアは。


まあ怪我させる事なく無事に終わったし、もう彼女とは今後一切係わる事もないだろうから、もうどうでもいいけど。


「いやー、良い狩りだったよ。クレア。またの機会があったらよろしくな」


俺はクレアの名前を呼び捨てにし、溜口で話している。

便所から戻って直ぐに敬語&様付けで呼んだら、本人からそういうのは止めて欲しいと拒否られたからだ。


「仲間とは対等にあるべき」と。

8-2吹っ掛けてきた奴が言うセリフではない。


因みに、彼女が最初吹っ掛けて来たのは、その方が暗殺者らしいからだそうな。

実にアホっぽい理由である。


ああ、勿論。

自分の勝手な判断だけで呼び捨て溜口を実行するなんて、命知らずな真似はしていないぞ。

言われた後すぐに便所に逆戻りして、本人の希望だからそれでいいかとお伺いをちゃんと立てている。

例の護衛に。


かってに溜口きいて、いきない背後からブスリとやられたら敵わんからな。


「許可はするが、調子には乗るな」


が、その際の返事だ。


「ふふ、まただなんて水臭いわね。私達はもうバディよ。暗殺者アサシン死霊術師ネクロマンサー。闇に生きる者同士、伝説を築いて行きましょう」


「……」


……伝説だ何だと言ってはいるが、要はこれって寄生宣言だよな?


冗談ではない。

寄生もそうだが、それよりも、いつ俺を殺しにかかるかもしれない彼女の護衛に見張られたままの生活などまっぴらごめんだ。


「あー、いや。死霊術師はあれだ。偉大なアサシンの相棒には相応しくないと思うんだ。きっと足を引っ張ってしまう。君にはきっと、もっと相応しい凄いパートナーがいる筈だ」


相手のプライドをくすぐりつつ、自分を落とす。

相手を不快にさせずに断りを入れる、常套手段じょうとうしゅだんである。


こんな風に丁寧に断るのは、護衛にやり取りを聞かれている可能性があるからだ。

丁寧に断っておかないと、後々何をされるか分かった物ではない。


「ふ、安心しなさい。闇に生きるアサシンは、決して相棒を見捨てたりしないわ。貴方は私を信頼して付いて来ればいいのよ」


お嬢様には通じなかった様だ。

もしくは、美味い寄生先を逃してなる物かとスルーされたか。

まあ後者の様な気はするが。


ダメージがゴミとは言え、一桁レベルの彼女にとってオークの経験値はかなり美味かっただろうからな。


ここで「迷惑なんでお断りします!」

そう声を大にして言えたら、どれ程素晴らしい事か。


「さあ、共に伝説を!」


クレアが左手を差し出して来る。

それを跳ねのけたい気持ちが爆発的に沸き上がって来るが、俺はぐっと堪えた。


短気は損気だ。

ここでそれをすると、護衛の奴に何をされるか分かった物ではないからな。


なら――跳ねのけられないのなら、それをメリットに変えるしかない。


「わかった。よろしく」


頭の中でこの状況をどう利用するか考えつつ、俺は笑顔でクレアの左手を握り返した。

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