第12話 闇に潜む美しき刃

「闇に潜む美しき刃。至高の暗殺者アサシン。それが私よ」


不審極まりない身なりの女性が、顔を手で押さえる感じのポーズを取る。

どうやら厨二病を患っている様だ。


「至高の暗殺者アサシンって事は、クラスは暗殺者か」


「そう。そして私はいずれ伝説になる」


「あ、はい」


暗殺者。

ゲームだと最新アップデート前は中の中位の位置で、アップデート後は強クラス入りしているクラスだ。


ただこの世界ではゲームと違い、暗殺者はハズレ扱いされていた。

その理由は、高レベルにならないとその実力が発揮できない点にある。


暗殺者は大器晩成型のクラスで、その真価を発揮するのはレベル150を超えてからだ。

だがこの世界だと、そこまでのレベルに到達する人間はごく一部しかいない。

そのため、一般的な基準からみて、暗殺者は弱いハズレクラスと判断されていた。


「貴方はその偉大なる私の覇道に、功績を残す栄えある1人目の人間になるのよ」


厨二っぽく言ってるが、要約すると――


単独だとレベル上げがきつい。

でも微妙クラスの厨二だから誰も組んでくれないので、ハズレ同士よろしくお願いします。

後、後ろから攻撃したいので前取って下さい。


――だ。


因みに暗殺者は、敵の背後から攻撃すると攻撃力が増加するパッシブスキルがある。

そのため単独で戦うより、パーティーを組んだ方が力を発揮するクラスとなっていた。


「まあ覇道云々は別にいいんだが……一時的にでも組むんだから、名前ぐらいは名乗ってくれるか?後、顏も」


美人だったらいいなぁという下心は無い。

痛い子は好みじゃないので、正直顔の美醜はどうでも良かった。

ただ顔も分らない相手と組みたくはないから、見せろと言っただけだ。


「闇に潜む者は、みだりに顔や姿を他者に晒さない物」


真昼間っから目立つ全身黒ずくめで活動しておいて、潜むも糞もあった物ではないと思うのだが……

まあ確かに、怪しくはあっても姿形は完璧にガードされてはいるが。


「けど……共に覇道を歩む貴方になら、見せてあげてもいいわね」


覇道を共に歩むつもりなど全くないのだが?

俺がいつそんな事を言った?


どうやら今回だけではなく、あわよくば俺の事を利用し続ける気満々の様だ。

厚かましい話である。


彼女がフードに手をかける。

そして俺にだけに見える様に、それを少し持ち上げてみせた。


「――――っ!?」


思わずハッとなって、俺は息を飲む。


吸い込まれそうな、輝く大きな黒い瞳。

少女特有の丸みを帯びながらも、美しく整った顔立ち。

淡いピンクの薄い唇。


彼女の美貌に点数を付けるのなら、100点満点所か限界突破の120点だ。


人は本当に美しい物を見ると息を飲むなんて聞くが、まさか自分がそれを体験する事になろうとは……


「あっ……」


俺が見とれてポカーンとしていると、彼女はフードを元に戻してしまう。

絶世の美少女から、怪しいだけの人物に逆戻りである。


「ふ、私の闇に魅入られたわね……」


「ああ、いやまあ……そうだな」


単純に見とれていただけなのだが、それを素直に口にするのは少々躊躇われた。

なので、彼女の厨二発言に合わせて誤魔化しておいた。

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