第11話 不審者

此処はカイゼンの街。

その街にある、冒険者ギルドだ。


建物は少々古臭いが、造りはしっかりしており、中はかなり広かった。

無駄に広いののは、まあ食事処を兼任してるためだろう。

勿論酒も出るので、真昼間っから飲んだくれてる冒険者もちらほら見受けられた。


今日俺がここに来たのは、冒険者ギルドの定番クエストであるオーク討伐の依頼を受ける為だ。


え?

オークはレベル上げのために死霊化するんじゃないのかだって?


するよ。

勿論。


ただその前に討伐証明部位である耳を切り落としておけば、あら不思議!

クエストも同時にこなせるって寸法だ。


ゴータ村でのキノコ稼ぎで資金にはある程度余裕があるので、クエストを受けるのはどちらかと言えば、お金よりもランクアップのためのポイント稼ぎの意味合いが強い。


「掲示板にあったオーク討伐を受けたいんですけど」


「オーク討伐ですね」


この街のギルドカウンターに座る受付嬢は、ゴータ村とは違って若くて美人だった。

やっぱファンタジー世界はこうじゃないとな。

別にお近づきになりたいとか、そんな不埒な事を考えている訳じゃないが、おばちゃんとじゃどうしてもテンションが違って来るという物。


「ギルドカードの提出をお願いします」


「はい」


受付の女性にギルドカードを渡すと、彼女は眉根を顰めた。

カードには俺の冒険者ランクと、クラスが記されている。

その目は明らかに「死霊術師如きがオーク狩るとか本気か」と物語っていた。


「えーっと……パーティーでの討伐でしょうか?」


「いいえ、単独です」


「死霊術師の方が単独で狩るには、少々厳しい魔物かと思われますが……」


「大丈夫ですよ」


「……わかりました。では登録いたします」


もっと強く止められる。

もしくは断られるかもと思ったが、レベルを提示するまでもなく、あっさり通ってしまった。


まあ自己責任で好きにやれという事だろう。

そう考えると、ゴータ村のおばちゃんの方が人情味があったとも言えるな。

まあだからなんだって話ではあるが。


「飯でも食うか」


依頼の登録を済ませた俺は、腹が減ったので、ギルド併設の食事処で昼飯を取る事にした。

安めの汁麺――うどんっぽい物――を頼み、受け取って席に座ると、怪しげな奴に急に声を掛けられた。


「あなた、オークのクエストを受けるそうね」


どれぐらい怪しげかというと、全身すっぽり覆うフード付きの黒いローブを目深にかぶっており、顏も良く見えない明らかな不審人物だ。

日本でなら、お巡りさんから職務質問が即飛んで来る事だろう。


身長は160無い位だろうか?

声が高めなので、中身は10代ぐらいの女性だと思われる。


「まあそうだけど……それが何か?」


「死霊術師でオークの討伐は無謀よ」


どうやら俺の依頼を盗み聞きして、難癖を付けに来たようだ。

そんな事をしている暇があったら、狩りにでも行けよと言いたくなる。


「オーク討伐は問題ないから、放って――」


「そこで!この私があなたのお守りをしてあげるわ!」


女性は俺の言葉を大声で遮る。


「はぁ?何言ってんだ?」


言っている意味が分からない。

ひょっとして、酒でも飲んで酔っ払っているのだろうか?


「安心しなさい。報酬は8-2でいいわ」


黒ローブの女は、自分を指さして8、次に俺を指さし2と告げる。

言い方はあれだが、ひょっとして俺とパーティーを組みたいって事だろうか?

報酬の差は、弱職である死霊術師の足元を見て吹っ掛けているのだろう。


「結構だよ。俺は一人で問題ない」


「ふ、強がりね。死霊術師がオークを単体で倒せる訳がないわ」


「勝手に決めつけないでくれないか?オークは俺一人で十分だ。誰かと組みたいなら、他を当たってくれ」


下僕も全部ビックトードに入れ替えているし、今の俺なら問題なく勝てる魔物だ。

良く分からん相手と組んで戦う理由はない。

俺は不審な女を無視して、麺をすする。


「あ、ちょっと!話はまだ終わってないわよ!」


「いや、もう終わってるだろ。食事の邪魔だからどっか行ってくんないか?」


パーティーを組む交渉は、俺に仲間が要らない時点で決裂している。

これ以上よく分からん不審人物と話す事は何もない。


「く……分かったわ。7-3で手を打ちましょう」


うん、何も分かってないよね。

君。


俺はシッシと手を振る。


「なら6-4よ!いえ、5-5でいいわ!これなら文句はないでしょ!」


大ありである。

一人で狩れる魔物を、折半する意味などないのだから。


「俺が10で、あんたが0なら考えてやるよ」


ウザいので追い払おうと、無茶な条件を口にしたら――


「う……分かったわ。この際、経験値だけで我慢してあげる」


何故か通ってしまった。

まじかこいつ?


てか、報酬無しでいいんなら、なんで最初にあれだけ吹っ掛けて来た?


「パーティー結成!決まりね!」


オークは死霊化させて使役するのが一番の目的だ。

火力の有るクラスに邪魔をされると、貢献度50%以上の縛りがあるから、それが出来なくなってしまう。


よって誰かとパーティーを組むのは論外だった。


けど自分で出した条件を撤回するというのも……まああれだよな。

仕方がないので、今回だけは組んで戦うとしよう。


「わかった。俺の名前はユーリ。死霊術師だ。で、君は?」


「ふふふ、私は――」

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