第8話 小金持ち

「取り敢えず、使役できる上限までゴブリンを狩るとするか」


俺は死霊の指輪からアンデッドゴブリンを取り出す。


使役しているアンデッドを収納できる。

それが死霊の指輪の3つ目の効果だった。


これがないとアンデッドは、基本ずっと連れ歩く羽目になる。

まあゲーム内だと大したデメリットではないのだが、現実で常時連れ回すとか絶対あれなので、今の俺には正直有難い機能だった。


「さて、まずは一匹目だ」


双眼鏡を使って、草原を見渡す。

ゴブリンは直ぐに何匹か見つかったが、前回の様に不意打ちが出来そうな奴はいなかった。


まあレベルも上がってるし、正攻法で大丈夫だろうと思う。

俺は早速一番近くにいるゴブリンの元へと向かった。


「ぐうぅぅぅぅ」


ある程度近付くと、此方に気付いたゴブリンが唸り声を上げて威嚇して来る。

俺は取り敢えず革袋から石を取り出し、あいさつ代わりにぶん投げた。


「ぐげっ!」


正面からなので腕で防がれてしまったが、その痛がり様から結構なダメージが通った事が分かる。

レベルアップに寄る筋力上昇の恩恵だ。

とは言え、それだけで倒せる程の大ダメージには程遠いが。


「ギャギャギャ!」


「背後に回って威嚇してくれ」


石をぶつけられ、怒ったゴブリンが此方へと突っ込んで来た。

俺はしもべに相手の背後に回り込み、威嚇する様命じる。


ステータスが低いので、攻撃させても大したダメージは見込めない。

それに下手にちょろちょろされても邪魔になるだけなので、攻撃は捨てさせ、威嚇で相手の気を引く役だけに徹して貰う。


「よっと」


ゴブリンの攻撃を俺は軽く躱す。

敏捷性が上がったお陰で、以前よりも楽に回避できる様になったのが実感できた。

余程油断しなければ、単純なゴブリンの攻撃を喰らう心配はもうなさそうだ。


「ふっ!」


俺は反撃にショートソードで軽く切りつけ、そして素早くゴブリンから間合いを離す。

無理をする必要はない。

怪我でもしたら損なので、慎重に戦う。


「ぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」


ゴブリンの背後に回ったアンデッドが、俺の指示通り大声で威嚇を行う。

相手は威嚇だけで攻撃を仕掛けて来ない事など知らないので、必然、其方へと意識が惹きつけられた。


――それは大きな隙だ。


勿論見逃してやるつもりはない。


「隙あり!」


俺の渾身の一撃が、背後を気にしていたゴブリンの肩に綺麗に入る。

肉を切り裂き、骨にまで達したそのダメージは軽くない。


「ぎゅがあぁ!」


肩を深く切り裂かれ、痛みに悲鳴を上げて苦しむゴブリン。

この状態なら反撃はこない。

そう判断した俺は、そのまま連続でショートソードを振るって畳みかける。


腕を、腹を、そして首を斬り付けた所でゴブリンは力尽きてその場に崩れ落ちた。


「思ったより楽勝だったな」


もう少し苦労するかと思ったが、2度目のゴブリン討伐は拍子抜けするほどあっさり終わってしまった。

レベルアップで俺がある程度強くなったというのもあるが、やはり挟み撃ちに出来たのが大きい。


「ゲームしてた時は取り敢えず殴らせてたけど、こういう使い方も悪くないか」


同じ様な感じでゴブリンを倒し、死霊術でアンデッド化していく。


「さて、MAXまで僕を増やしたし。後はこいつらがキノコを見つけ出してくれ事を期待するか」


◇◆◇◆◇◆◇


「ぎゃぎゃぎゃぎゃ!」


散会して、地面の匂いを嗅いでいるアンデッドゴブリンの一匹が騒ぐ。

俺はそこに駆け寄り、そいつが示す場所を手で軽く掘ってみた。

すると地中に埋まった黒いキノコが姿を現す。


「ビンゴ!」


収集クエストの土竜キノコだ。


開始3分で1つ。

この調子なら、直ぐに必要最低数は集まりそうだ。


クエストでの依頼数は10本以上で、1本あたりの価格は約5シルバー相当――サイズで多少前後する――での買取になっている。

5シルバーは日本円で言うと、だいたい5千円ぐらいだ。


何処のマツタケだよって感じの素敵価格である。


「よし、引き続き頼むぞ」


邪魔なゴブリンを始末しつつ、それから1時弱で最低数の10本が集まった。

時給に換算すると5万円だ。

ボロすぎる。


だが、当然そこで終わらせたりはしない。

がっつり稼がせて貰うぜ。


その日1日をかけて、俺は持参したズタ袋いっぱいになるまで土竜キノコを集めまくるのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


翌日、朝一で雑貨屋件ギルドへと向かう。

そしてキノコでパンパンに膨らんだズタ袋をカウンターへと起き、清算を頼んだ。


「これ全部お願いします」


「……まじ?」


その中身を確認し、おばちゃんの目が点になる。

昨日夜遅くまで頑張って――下僕が――集めたので、袋には150個近く入っている。


どやっ!


「取って来ただけ買い取ってくれるんですよね?」


「ええ、まあそうだけど……あんた、一体どうやって一日でこんなに集めたの?」


「企業秘密です。まあ、死霊術師の能力とだけ言っておきましょう」


嘘は言っていないが、どうやってかまでは教えない。

美味しい金策をべらべら喋る程、俺も馬鹿じゃないからな。


「全部で……7ゴールドと35シルバーよ」


1ゴールドは100シルバーで、10万円と思って貰えばいいだろう。

この村の宿屋は朝晩の賄い付きで6シルバーなので、昨日1日で122日分の宿泊費を稼いだ事になる。

まあ他にも色々と使うだろうが、これで3か月は安泰だ。


「毎度あり!」


「あ、ちょっとまって。今日は他のクエストを受けて行かないのかい?」


ほくほく顔で帰ろうとすると、おばちゃんに呼び止められる。

どうやら溜まっているクエストを俺に消化して欲しい様だ。


だが断る!


「すいません。暫く用事があるんで」


「そうかい……残念だよ」


これが美人のお姉さんなら、少しは考えなくもなかったが、おばちゃんのお願いとレベル上げなら後者が圧勝だ。

という訳で、俺は再びレベル上げに戻るのだった。

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