第5話 ゴブリン狩り
翌日、俺はゴブリンが生息する平原へとやって来た。
狩りの出で立ちは厚手のシャツとズボンに、皮の胸当て。
それにショートソードだ。
装備がショボいのは、まあ資金的な問題の為である。
孤児院を卒業する際に国から支度金を貰っている訳だが、その大半はここまでの移動で消えてしまっていた。
そのため、装備に金をかけられなかったのだ。
だがまあ、此処での狩は身軽さが必要になる。
武器はともかくとして、防具はこれぐらいでちょうどいい。
余りガチガチの装備を着こむと防御面はともかく、攻撃面で問題が出て来る。
重い鎧なんて来たら、剣も真面に振れなくなるからな。
俺は。
小柄で身軽なゴブリンに対応する為には、此方も軽装で自由に動く必要があるのだ。
「見つけた」
双眼鏡を取り出し周囲を見渡すと、草原の中でゴブリンが四つん這いになっている姿を見つける。
どうやら何かを食べている様で、その姿は隙だらけだった。
ゴブリン。
それはゲーム等でおなじみの雑魚モンスターだ。
体は成人男性より二回りほど小さく、その肌は緑色で醜悪な顔つきをしている。
ま、今は地面に顔を突っ込んで何か食べているので顔は見えていないが。
だが体が小さいからといって、侮ってはいけない。
非戦闘クラスにとって、場合によっては命の危険にすら陥る相手だ。
そしてそれは虚弱な死霊術師にとっても同じ。
「チャンスだな……」
俺は腰のベルトに賭けてある大きめの革袋から、拳大の石を取り出した。
これは事前に集めたもので、ゴブリン狩りに必要となるアイテムだ。
どう使うのかって?
当然、投げてぶつける。
俺はそろりそろりとゴブリンに気付かれない様に近づき、投石が当たる距離まで近づく。
そしてその背中に向かって、思いっきり石をぶん投げた。
「ぎゃっ!」
ゴスッと鈍い音が響き、短い悲鳴と共にゴブリンが慌てて立ち上がる。
その顔に、怒りの形相が浮かんでいるのがありありと見て取れた。
ま、食事中にいきなり背中に石をぶつけられれば誰だって怒るわな。
「もう一発!」
俺は素早く革袋からもう一つ石を取り出して、再びゴブリンに向かって投げつけた。
体を狙ったのだが、今度は腕でガードされてしまう。
まあ正面からだから仕方がない。
とは言え、ダメージはしっかり通っている様で、ゴブリンはその一撃に顔を顰めている。
「ぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」
ゴブリンが怒りの雄叫びと共に、此方へと突っ込んで来た。
俺は急いでもう一発石を投げつける。
だがそれはゴブリンの肩を掠めただけに終わってしまう。
「ちっ!」
距離的にもう石を投げる余裕はない。
俺はショートソードを抜き放ち、突っ込んで来るゴブリンに対応すべく身構えた。
「ぎゃおう!」
ゴブリンが突っ込んで来た勢いで、そのまま此方に飛び掛かって来る。
素早い動きだが、俺はそれを何とか躱し、四つん這いで着地したゴブリンの横腹を手にしたショートソードで斬り付けた。
「ちっ!浅いか!」
だがその攻撃を、ゴブリンは四つん這い状態からの横っ飛びで躱してしまう。
そのため、ショートソードの切っ先が皮を僅かに裂いただけに終わってしまった。
やっぱりつええな、ゴブリン……
冒険者になると子供の頃から決めていた俺は、今までちゃんと体を鍛えて来ている。
当然剣を扱う訓練も我流ながら――習う様なお金は無いので――やっており、記憶を取り戻した時点でレベルは15まで上がっていた。
それでも尚、ゴブリン相手に楽勝とはいかない。
これが同じレベルの戦闘職だったなら、殆ど訓練していなくとも楽勝だった事だろう。
死霊術師マジよええ。
因みに、先制攻撃に弓やスリングを使わなかったのは、死霊術師には飛び道具の扱いに関するマイナス補正がある為だった。
俺がそれらの攻撃をした場合、威力が激減し、更には命中率もカスみたいになってしまう。
そのため飛び道具は、とてもではないが攻撃手段としては使えなかった。
まあただこのマイナス補正は、物を直接投げつける分には適応されない。
俺が先制攻撃に手投げの投石を採用したのはそのためである。
「くっ!」
ゴブリンとの死闘が延々続く。
俺は自分から攻撃する事を避け、ひたすらカウンターに徹した戦いを行う。
下手に仕掛けると、大ダメージを喰らいかねないからだ。
「はぁ……はぁ……しぶとい奴だ」
息が上がる。
ゴブリンの爪は鋭く、厚手の布程度では抑えきれない。
そのため俺の手足には、躱しきれなかった傷跡が幾筋も浮かんでいる。
対するゴブリンも相当疲弊していた。
先手の投石によるダメージに加え、致命傷ではないが今や全身きり傷だらけだ。
もう後ひと踏ん張りと、俺は気合を入れる。
「ぎゃぎゃ!」
かなり追い詰められているにも関わらず、ゴブリンは逃げる事無く果敢に攻撃をしかけて来る。
その高い闘争本能に、流石魔物だと感心せざるを得ない。
だが疲れとダメージからか、その動きに精彩はまるで無かった。
これで決める!
「おらぁ!」
俺は相手の動きに合わせ、ショートソードを力一杯振るう。
その一撃は相手の肩の骨を折りつつ、胸元を鋭く引き裂いた。
「ぎゃがぁ……」
ゴブリンが倒れ、絶命する。
「ふぅ……ふぅ……勝った……」
死霊術師の大冒険。
完!
いや、完じゃねぇ。
寧ろここからが始まりだ。
俺は倒れているゴブリンの死体に、
黒い光がゴブリンを包み込み、その体からアンデッド特有の瘴気が微かに立ち昇る。
そしてその開きっぱなしだった瞳に濁った光が宿ったかと思うと、少し体色が黒くなったゴブリンが、ゆっくりとその場で起き上がった。
「よし!初下僕ゲット!」
俺は早速、そいつのステータスを確認する。
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