第4話 不滅

ペェズリーがその生涯をかけて生み出したアイテム。

死霊の指輪。

その指輪には3つの効果が秘められていた。


そのうちの一つが不滅である。


ヘブンスオンラインではアンデッドはHPが0になると、跡形もなく消滅してしまう仕様だ。

そのため使役しているアンデッドがやられる度、死霊術師は一々魔物を自力で狩り、再度用意する必要があった。


だが、この不滅という効果があればその必要がなくなる。


何故なら、死体が消滅せずその場に残ってくれる様になるからだ。

当然それは再利用可能であり、狩りをせずともしもべの補充が――僕の死体を死霊化するのには、貢献度は必要ないため――出来た。

死霊術師にとって、この差は非常に大きい物と言えるだろう。


「不滅さえあればMPの続く限りゾンビアタックできるし、何より……経験値稼ぎが捗る」


経験値は訓練などの努力をするか、魔物を狩る事で、この世界では得る事が出来る様になっていた。

そしてこの魔物の中には、使役した魔物――アンデッドも入っている。

そのため無抵抗な自分のアンデッドを狩る事で、経験値を稼ぐという行為も可能だった。


これはまあ、一応アップデート前からあった仕様だ。

だがそれを使って、死霊術師のレベル上げをする奴は多くなかった。


何故なら、効率が全然よくなかったからだ。


得られる経験値はそれ程多くない――能力相当であるため、生前の3分の1程度――上に、消滅する度に新しく魔物を自力で狩る必要出て来る。

それは、お世辞にも効率のいい行動とは呼べなかった。


だが不滅の効果で再アンデッド化が楽に行える様になれば、話は変わって来る。

経験値量は少ないとはいえ、魔物を無駄に探す事なく、モグラ叩きの様に経験値を得られるのだ。

戦闘力の低い死霊術師にとって、この稼ぎが非常に大きな物となるのは言うまでもないだろう。


「ふぅ……やっと出れた」


森の外に出て、新鮮な空気を求め深呼吸する。

ま、実際は森の周囲も瘴気が濃いので新鮮には程遠いが。

それでも不気味な場所から出れたという気分が大きいので、凄く空気が美味しく感じる。


「取り敢えず……村に戻ったら一泊してから、ゴブリンを狩りに行くとするか」


死霊の森の近くにあるゴータ村。

その反対側には、誰もが知る雑魚モンスターであるゴブリンの狩場があった。


死霊の森が高レベル狩場なのに対し、なんでそんな近くに低レベル狩場があるのかって?


それは死霊の森がゲートの影響で、異常に高レベル化している為だ。

つまり、あそこだけ例外なのである。

実際、あそこ以外は大した魔物はこの辺りに生息していない。


ま、大した事が無いと言っても、糞弱い死霊術師だと、ゴブリン以外には勝ち目が薄いんだけどな。


死霊の森の瘴気の影響で、村からの道には殆ど魔物が出ないからこそ、俺は森へ一人で向かう事が出来ている。

まあ万一魔物と遭遇した際の保険として、くっさい匂いが出る煙球を撃退用に用意してはいたが。


村に帰った俺は宿に泊まり、体調を整えてから翌日ゴブリン狩りへと挑む。


挑むとは大げさだと思うかもしれないが、糞弱い死霊術師にとって、ゴブリンとの戦いすら余裕とは言い難い。

場合によっては、命を落とす可能性だってある。


ゲームなら少しのペナルティで済むが、現実での戦いにおける死亡は即ゲームオーバーだ。

ある意味俺にとって、ここが一番の正念場と言っていいだろう。


気合い入れていくぜ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る