第3話 クエスト
馬車を乗り継ぎ、街から街へと移動する事約3週間。
目的地である死霊の森へと俺は辿り着く。
「やっとついた……」
目の前には、不気味な瘴気が漏れ出す森が広がっている。
死霊の森と呼ばれるこの場所は、アンデッド系のモンスターが
この場所がアンデッド塗れになっているのは、森の中央にある冥界の扉というゲートが原因だった。
ゲートはあの世と繋がっているという設定で、そこから漏れ出る瘴気がありとあらゆる生物をアンデッドに変えてしまっている状態だ。
もうなんなら、生えている木等の植物すらアンデッドだったりする。
後、森の周囲数キロに魔物はいない。
其の辺りで暮らす魔物は全部アンデッド化して、森に行ってしまうからだ。
お陰で俺は魔物に絡まれる事無く、安全にここまで来る事が出来ていた。
「さて、行くか……」
俺は森に入るにあたって、
これは死霊術師専用のスキルで、使用中アンデッドは此方を敵と認識しなくなるという物だ――勿論、此方から攻撃したら反撃されてしまうが。
「戦ったりしたら、確実に即死だからな」
この森はそこそこ高レベルの狩場で、出現する魔物のレベルは100を軽く超えている。
当然そんな魔物と戦う力は俺にはない。
だからスキルでスルーして進むという訳だ。
因みに、この森に漂う瘴気を長時間吸い続けると人間もアンデッド化してしまう。
そのため狩りをする際なんかはそれを防ぐ聖水が必須なのだが、死霊術師である俺には必要なかった。
何故なら、死霊術師というクラスには瘴気や呪い系の状態異常を完全無効化する、隠しのパッシブスキルが備わっているからだ。
「ゲームだとそれ程気にならなかったけど、リアルだとやべぇな」
アンデッド化した森の木々が――幹には顔の様な物が浮かんでいる――ニヤニヤと此方を見つめて来る。
その表情が周囲に漂う瘴気と相まって、不気味な事この上なしだ。
「う……くさっ……」
少し前方を、巨体のアンデッドが横ぎっていくのが見えた。
その肉は腐り、ここまで腐臭が漂って来た。
そのあまりの匂いに、俺は顔を顰める。
「長居したくねぇな。急ごう……」
自然と俺の足は速足になる。
魔物に襲われないとはいえ、長く留まるにはこの森は不快すぎだ。
「おおっ!いた!大死霊術師、ペェズリーだ!」
大死霊術師、ペェズリー。
死霊術師というハズレクラスに誇りを持ち、その生涯を研究に捧げた人――の、なれの果てである死霊がゲートの傍に佇んでいた。
彼は自身の研究の成果である、死霊術師の指輪を託すに値する相手を死後も探し求め、現世に留まっている。
と言うのが、このクエストの成り立ちだ。
「初めまして」
俺はウキウキ気分で青白い姿の、実態を持たないペェズリーに話しかける。
何せ大逆転のアイテム入手が確定した訳だからな。
浮かれるなという方が無理だ。
それにこいつがいるという事は、サブサブクラスも実装されている可能性が極めて高い。
そうなれば、死霊術師の最強伝説の始まりだ。
「君は……死霊術師か?」
「はい。偉大なる死霊術師である、ペェズリー様の教えを受けたくてやってまいりました」
ゲームならいくつか選択肢が出て来る。
失敗したら、話しかけてやり直す感じの。
だがこれは現実なので選択ウィンドウはでてこないし、失敗した場合、もう一度受けられる保証もない。
なので俺は自分の記憶をほじくり返し、正確な選択肢の行動と発言を完璧にこなしていく。
「君は優秀な死霊術師の様だな。ならば、我が生涯をかけて生み出したこれを授けよう。私は君が後継として、偉大なる大死霊術師に至る事を願っている」
「はい!必ずや御期待に応えて見せます!」
ミッションコンプリート!
ペェズリーは指輪を俺に託し、そして笑顔で黄泉の世界へと旅立っていった。
「成仏したか……この場合、どうなるんだろうな?」
ふと思う。
ゲーム内だと、クエスト未攻略の死霊術師がゲートに近づく度にペェズリーはその姿を現す仕様だ。
そして、自分の傑作である指輪をその都度配布してくれる訳だが……
「ここが現実である事を考えると、これ一個だけしかないオンリーアイテムの可能性があるよな」
クエストストーリーだと、彼は後継を見つけて満足して成仏した事になっている。
さっきのやり取りも、勿論その流れだ。
である以上、別の死霊術師が近づいたからといってひょっこり姿を現すとは思えなかった。
「そう考えると、他の誰かに取られる前で本当によかったよ」
万が一取られていたら偉い事だった。
これの有る無しで、全然変わってしまう。
ま、用は済んだのでとっとと森からでるとしようか。
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