第8話 オフコラボ当日!
比良坂めぐるとのオフコラボ当日。
眞緒はめぐるを迎えるために家の中の掃除に勤しんでいた。
佐倉マネージャーが彼女の自宅へ迎えに行ってくれているので、眞緒は彼女が泊まる部屋の準備をしている。幸い眞緒の新居は部屋が有り余っているので、来客用の部屋もバッチリだ。配信部屋には折り畳みができるゲーミングチェアもあり、オフコラボの対策もバッチリである。
先ほど佐倉マネージャーからめぐるを回収した旨の連絡があったため、あと少しで家に来るらしい。
「めぐるちゃんってどんなおかずが好きかな?」
夕飯のレシピを考えながらお風呂の掃除をしていると、携帯が電話の音を鳴らす。着信元は幼馴染の麻里からだった。
「もしもし麻里?」
「おはよう、今大丈夫?」
「大丈夫だよー。どうしたの?」
眞緒は通話をスピーカーにし、風呂掃除を継続する。
「あんたが離婚したことを聞きつけてあんたの実家が連絡してきたのよ。突っぱねたら私の実家にも連絡したみたいでね。あんたの事情はわかってるから何も答えなかったみたいだけど。」
「そう...迷惑かけたみたいでごめんね。」
眞緒は申し訳なくなり謝ると、麻里は「気にすんな」と言った。
「あんたの実家を突っぱねるなんてどうということないわよ。まだ仕事も残ってるしもう切るわね、あんたも体調に気をつけて配信頑張んなさいよ。今日のオフコラボもアーカイブで見させてもらうわ。」
「うん、ありがと。」
それじゃあ、と言って麻里は電話を切った。
麻里は仕事で忙しい中この報告のためにわざわざ電話をかけてくれたようだ。あの息苦しい家を出て以降、実家とは関わらないように生きてきたので家族は私の連絡先を知らない。そのため家族は必ずと言っていいほど麻里の家に連絡をするのだ。
自分の家庭の事情で他の家庭にまで迷惑をかけてしまうなんて...とりあえず今度の休日、菓子折りを持って謝りに行こう。
眞緒はスポンジの泡をしっかり落として風呂掃除を完了させるとそのまま配信部屋に向かった。
配信は20時から。YouTubeでの配信枠は既に確保してあるが、眞緒はオフコラボが初めてであるため、何かしらの不具合は起こりそうな予感がしていた。
【天抱まお@ラブシャイン2期生☑︎/@mao_amadaki】
オフコラボに備えて機材の調整をします。
めぐるちゃんが来る前に終わるかな?
眞緒はスマホから呟くと、そのままパソコンの調整に取り掛かる。
こういう何気ない呟きも視聴者から求められているようで、眞緒も最近は頻繁にツイートを行うようになった。反応を示してくれるフォロワーがたくさんいて、つぶやいた数秒後には二度見するほどのいいねやリツイートで通知欄がいっぱいになる。
めぐると自分のバーチャルモデルが正しく映ることを確認したところで自宅のチャイムがなった。
「おはようございます天抱さん!今日もいい天気ですね!」
「おはようございます佐倉さん、めぐるちゃんのお迎えありがとうございます。」
眞緒は頭を下げながらそういうと、彼女の背後にいる少女に顔を向ける。
「めぐるちゃんもいらっしゃい。どうぞあがって!」
「あ、お邪魔します...」
佐倉マネージャーに促され部屋の中へと入っためぐること音成晴は、緊張した様子で眞緒の顔を見ていた。
リビングに通し椅子に掛けた二人にお茶と洋菓子を出すと、眞緒も正面の椅子に腰掛けた。
「数日ぶり。学校はどう?」
「昨日終わって夏休みに入りました。今日から毎日お休みです。」
「それはよかった。いつでもうちに来ていいからね。」
眞緒はにっこり笑ってそういうと、椅子から立ち上がって台所に向かった。
「佐倉さんもお昼はまだですよね?よければ食べていってください。」
「え、いいんですか?私天抱さんの作るご飯食べてみたかったんですよ!」
社長に連絡してきます!と佐倉マネージャーはウキウキした様子で部屋から出ていった。眞緒がエプロンをつけて冷蔵庫からいくつか材料を取り出すと、晴が台所に近づいてきた。
「ん、どうしたのめぐるちゃん?」
眞緒がそう尋ねると、晴はもじもじしながら眞緒の顔を見る。
「あの...料理お手伝いしてもいいですか?」
「え?ゆっくりしてていいんだよ?」
晴からの申し出に眞緒は労う気持ちでそういうと、晴は首を横に振る。
「ただご馳走になるのも申し訳ないので...だめですか?」
「っ!」
上目遣いで眞緒を見上げる晴。何だこれかわいい。
最近の女子高生はこんなにかわいいものなのか...。
「あ、あの、まおママ?財布からお金出してどうしたの...?」
「ハッ!!」
無意識で財布から諭吉3枚を出していた眞緒は、そのまま諭吉を財布にしまった。
思わずお小遣いをあげたくなってしまったが、そんなことをすれば彼女に迷惑だもんね。
「じゃあ手伝ってもらってもいいかな?」
「っはい!!」
眞緒がそういってエプロンを取り出すと晴は嬉しそうに返事をしてエプロンをつける。
「じゃあ人参の皮剥いてもらってもいい?」
「はい!」
※※※
「お昼ご飯にこんなに豪勢なものが食べられるなんて...」
佐倉マネージャーが目の前に広げられた御膳のような昼食を見て感動している間に、眞緒と晴は出来上がった料理を次々にテーブルに運んでいく。
「まおママ、これの盛り付けってこれでいい?」
「うん、ありがとね」
「えへへ」
晴が台所で手元を眞緒に見せ、眞緒が晴の頭を撫でる。晴が犬であれば尻尾が大きく振れていることだろう。
「本当にママだなぁ...」
母親になった経験は一度もないはずなのに、彼女の行動に節々に現れるそれは完全に母親だ。
一体あの母性はどこから生み出されているのやら...
何はともあれ目の前の食事だ。
溢れ出そうな涎を抑えながら佐倉マネージャーは席についたのだった。
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