第11話 初ダンジョン攻略へ
ダンジョン。
それは地上とは別世界のモンスターがはびこる異界の地だ。
地上からの外観は洞窟や建物などと多種多様だが、内部的にはどこも同じで下へ下へと階層が伸びている構造らしい。
この試験会場となったこのピラミッド型のダンジョンもそう。
今回の目標地点は地下7階。
制限時間もあるので1階層辺りに30分もかけられない。
できるだけ効率的に進んでいく必要がある。
しかしそれを阻むのがダンジョン内のモンスターたちだ。
ダンジョンのあちこちで初めてのモンスターとの戦闘に苦戦する声が聞こえてくる。
俺たちも例に漏れず小型のモンスターたちと
パチンっ!
俺はネコダマシを使って正面のモンスターの意識を空白化させる。
「とりゃぁぁぁあっ──!」
そしてその間に距離を詰めたザクロが超強烈なパンチを見舞う。
〔グガァァァッ!〕
今度は左右から2体同時に俺めがけて襲い掛かってくる。
「はぁっ!」
しかし、それらはキスイが黄色い狐火で弾き飛ばす。
そして壁に叩きつけられたモンスターたちに、俺とザクロでトドメを刺した。
「「「いぇーい!」」」
3人でハイタッチをする。
これで倒したモンスターは10体目だ。
初対面とは思えない程のスムーズな連携。
俺たちは並みいるモンスターたちに1度のダメージも許さず完封していた。
「さすが夜彦さんです。素晴らしい能力をお持ちですわ!」
「いやいや、俺は大したことないって。能力を応用してカバーしてくれるキスイと、強力な怪力で安定の火力を出してくれるザクロのおかげだよ」
「ご
「あ、ありがとう……!」
そして俺たちの快進撃は続く。
自分で言うのもなんだけど、すれ違う受験生たちにも目をまん丸にされてしまうほどその戦いぶりは完ぺきなものだった。
「アイツら、本当に受験生だよな……?」
「どういうことだ、モンスターと戦うのにぜんぜん躊躇してないぞ……?」
「まるで実戦経験でもあるかのような動き方じゃない! クッ、あの子たちと組んでおけばよかったわぁ!」
そんな声がちらほらと聞こえてくる。
うん、まあ普通は怖いよね、モンスター。
ほとんどの受験生がこの試験で人生初の対モンスター戦を経験するわけだから当然だ。
──ただし、俺を除いては。
俺はこの実技試験に備えてカムニャ同伴の元、何度も本物のモンスターと命がけの実戦を積んできたのだ。
他の受験生には悪いけど、経験値が違う。
そんなワケで俺たちはサクサクとダンジョンを進んでいく。
そして試験開始から1時間弱。
俺たちはとうとう地下7階にたどり着いた。
すると向かい側から複数の受験生たちがやってくる。
「おっ、もしかして攻略組か……?」
その表情は誇らしげだ。
無事にゴール地点までたどり着いて後はダンジョンから出るだけのチームだろう。
よし、ちょっくら情報収集でもしようかな。
「やあ、お疲れ」
「んっ……? ああ、お疲れ」
真面目そうな顔をした1人の男子が戸惑いつつも返事をしてくれる。
「もうここから近いのか?」
「ああ。まあ、もうすぐそこだな」
「そっか、ありがとうな。地上まで気をつけてな」
「ああ、ありがとう。お前たちも充分に気をつけることだ」
「うん? 充分に、って?」
「……うむ。まあ、いいだろう。今はライバルとはいえ、合格したら級友になるかもしれんのだからな。ここで恩を売っておくのも悪くはない」
その男子生徒は声のトーンを落として続けた。
「このダンジョン、かなりの強さのダンジョンボスがいる」
「え、ボスっ……?」
「ああ。トラ型の3メートル級の化け物だ。あれは受験生のレベルじゃ手に負えない。俺たちはなんとかやり過ごしたが、俺たちの前に来ていたチームは全滅したらしい。気絶してるところを試験官たちに回収されていたぞ」
「マジか……!」
サクサクとここまでたどり着いた俺たちよりも前にたどり着いていたということは、きっと優秀な受験生たちで構成されたチームだったのだろう。
それが全滅?
相当な危険度に違いなかった。
「情報助かる。お互い合格してまた会えたら、その時はメシをおごるよ」
「ほう、それは入学後の楽しみが増えるな。がんばれよ」
その男子と拳を突き合わせて別れる。
うん、なんかいい出会いだった。
「ザクロ、キスイ。話は聞いてたよな」
「はいっす。ダンジョンボスっすよね」
「私たちも避けていくのがよいかと思いますわ」
「だね。慎重に進んでいこう」
俺たちは辺りを警戒しつつ、会話も控えめに、慎重に道を進んでいく。
するとすぐに学校の体育館くらいの広さがある大きな空間へと突き当たる。
「あっ、夜彦さん! 真ん中になにかあるっすよ!」
「あれは……端末だ! あれにネームプレートを読み込ませればいいんだな」
辺りを見渡す。
ダンジョンボスらしき影はどこにもない。
行くなら今のようだ。
「よしっ! 行こう!」
俺たちはダッシュで端末まで駆けた。
前までやってくるとウィーンと備え付けのカメラのフォーカスが俺たちに合う。
『受験番号照会中……4344、5620、5621……照会完了。あと2時間50分以内にダンジョンを脱出してください』
アナウンスのあと、ピコーンと端末が鳴る。
どうやらこれで攻略は完了したらしい。
あとは帰るだけ……そう思っていた時だった。
〔──ォォォォォォオンッ……!〕
ダンジョンの奥から背筋を凍らせるような恐ろしい声が響いた。
「ザクロ、キスイ……! これってもしかして……!」
「ダンジョンボス、のようですわね……!」
だよなぁ……! ここにきてか!
どうする?
このままダッシュで上の階層まで逃げ切れるか?
「いや、さっきのチームはやり過ごした、って言ってたな……」
とすれば俺たちは前例にならうべきだろう。
あえてリスクを取る必要はないのだ。
辺りを見渡して、恐ろし気な声が聞こえた方向とは逆にダンジョンの細い小道があるのを見つける。
「2人とも、あそこでボスをやり過ごそう!」
「「はいっ!」」
急いでその道に入り、俺たちは息をひそめた。
しばらくして、
「とうちゃ~くっ!」
俺たちの来た方向から1つの受験生チームがやってきた。
「おい、見ろよ! 端末があるぜ!」
「ホントだ、これで俺らも合格だなっ?」
「ちょっとみんな! 騒ぎすぎよっ!」
「まあいいじゃない。アリサだって嬉しいでしょ?」
「そりゃまあ嬉しいけど……」
──おいおい。最悪のタイミングじゃねーか……!
マズい、あのチームにも早く隠れろって教えてやらないと!
そう思い小道から出ようとしたところ。
ガシッと。
後ろからザクロが俺の服を引っ張って止めていた。
「来るっすよ……」
〔──グォォォォォォォオンッ‼〕
地の底まで響きそうな雄たけびと共に、風のような素早さでそのモンスター……ダンジョンボスは現れた。
鋭い犬歯を剥く巨大なトラ型のモンスターだ。
「「う、うわぁぁぁぁぁッ⁉」」
「いやぁぁぁあっ!」
ダンジョンボスを目の前にしたそのチームの受験生たちはほとんどがパニックを起こし、背中を向けて逃げ始める。
バカッ、そうじゃない……!
俺がそう言葉にする前に、しかしボスによる
〔グォォォッ‼〕
ボスはまたたく間に逃げる受験生たちの前に回り込む。
そして巨大な前脚で全員を払い飛ばした。
彼らはなすすべなく地面を転がり、気絶したのだろう、ピクリとも動かない。
「っ……!」
そんな中でアリサと呼ばれていた女子だけは生き残っていた。
ひとりだけパニックを起こすことなく、無防備な背中を見せなかったのだ。
〔グルルルルッ!〕
「いやっ!」
アリサは必死に何かを振り回して抵抗する。
だがボスはそれをものともしない。
残酷なほど的確にアリサを隅へと追い詰めた。
「くっ……!」
そしてボスがトドメとばかりに前脚を振り上げた、その時。
──俺の体は、勝手に動き出していた。
「「よ、夜彦様っ⁉」」
後ろからザクロとキスイの、不意を突かれたような声が聞こえる。
でももう、止まれない。
俺は、隠れていた小道からボスに向かって走り出していた。
パチンッ! ネコダマシを使う。
「今だッ! 横に飛べぇッー!」
「っ⁉ はっ、はいっ!」
アリサが横っ飛びする。
次の瞬間、彼女が元居た位置に前脚が振り下ろされた。
〔グルァァァッ!〕
獲物を逃したことに怒り、ボスがアリサに向かって飛びかかろうとする。
「させるか──ッ!」
パチンッ! さらにネコダマシ。
ボスへと一気に距離を詰める。
パチンッ! さらにさらにネコダマシ。
その
〔ガルッ⁉〕
「転がれッ! ダンジョンボスッ‼」
ズゥゥゥンッ!
ボスは飛びかかる瞬間にバランスを崩し、盛大にひっくり返った。
〔グルルルッ!〕
「来いよ……! 俺が相手になってやる……!」
ボスは何のダメージも無いかのように再び立ち上がる。
体格は俺の何倍だ? 3倍くらいか?
改めて真正面から見上げると、こう、迫力がすごい……。
〔グガァァァァァッ!〕
こっわ。
いやめちゃくちゃコワイ。
足、ちょっと震えてる。
ああ、やっちまったなぁ……。
怒りに牙をむいて立ち上がるボスに
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます