第10話 新しい出会い

 金髪ギャルの女の子の思わぬ申し出に……とりあえず俺は自分の周りを見渡した。

 

「? どうかしたんスか?」


「い、いや……君は俺に話しかけてくれてる……んだよね?」


「あはは! なに言ってるんっすか? 当たり前じゃないっすかぁ!」


「そ、そっか……!」


「アタシ、葛后くずごうザクロっていうっす」


「俺は山本夜彦。よろしく……ところで、どうして俺と?」


「えっ? なにがっすか?」


「いや、どうして俺とチームを組もうと思ってくれたのかなって」


「あ、あぁ! それっすね? えっとえっと、え~っとぉ~~~」


「うん?」


 なぜだか葛后くずごうさんの目が泳ぎ始める。

 え、どうした?

 

「あっ、そうっすそうっす! あの、ネコダマシとかマジめずらしいっていうか? そんな術を使う人といっしょにダンジョン行ったらめちゃ楽しいんじゃない? みたいなノリっす……たぶん」


「たぶん? というか、葛后さんがなんで俺の能力知ってるの? まだ話してないのに……」


「あ゛! えと、そっ、それはっ……!」


「──きっと、あなたが他の受験者と話をしているのを聞いていたんでしょう」


「えっ……」


 突然横から、鈴を鳴らすような澄んだ声が割り込んでくる。

 振り向いた先に立っていたのは、長い黒髪が特徴的な和風美人だった。

 

「ごきげんよう。私の名前は首姫くびひめキスイ。私もそちらの子と同じであなた──夜彦さんとチームを組みたいと思って来た者です」


「き、君も俺と……? っていうか俺の名前……」


「申し訳ございません、はしたないことではあるのですが、各所で夜彦さんがお話されているのを盗み聞いておりました。いろんな受験生に声をかけていらしたので、つい……」


「あ、そっか……まあ確かにあれだけ声掛けしてれば聞こえちゃうよね」


「そ、そうっすそうっす! 私もそうだったんっす!」


 葛后さんも勢いよく頷く。

 なるほど……意図せず俺は自分の能力を広く宣伝してしまっていたらしい。


「それで、どうでしょう。私も夜彦さんのチームに加えていただいても?」


「あ、うん。俺はぜんぜん歓迎なんだけど……」


「なにか私たちに心配があるのでしょうか?」


「いや、葛后さんや首姫さんにってわけじゃないんだけど……ただ2人はどうしてネコダマシしか使えない俺と組もうと思ったのかなってさ。だって、役に立つ能力を持ってる受験生なら他にもいっぱいいると思うけど……」

  

「そうですね。確かに応用性という観点で見れば他に有用な異能力はたくさんあるでしょう」


「じゃあ、普通はそういう異能力者とチームを組みたいんじゃ?」


 首姫さんはしかし、フルフルと首を横にする。


「個々の異能力で重要なのは応用性かもしれません。しかし、チームを組むうえで大事なことが必ずしもソレとは限らないのです」


「えっ……どういうこと?」


「つまり、相性ですわ」


 ボッ、という音と共に首姫さんの立てた人差し指に黄色の火が灯る。

 

「私の異能力は【狐火】。この黄色の炎で遠距離攻撃や防御ができて、灯りにも使うことができます。また、同時に最大で9つの火の玉を同時に操れます」


「す、すごい……! 応用性抜群の異能力だね……!」


「お褒めいただきありがとうございます。ただ、火を用意するまでに時間がかかるのが欠点で、敵を足止めする方法が必要なのですが……」


 そこまで口にして、チラリと俺を見た。

 ああ、なるほど。

 

「つまり俺の能力がその穴埋めができるってことか。俺がネコダマシで相手の注意を引く最中に首姫さんは攻撃の準備を整えることができる、と」


「そういうことです。夜彦さんと私は相性ばっちりってことですよ」


 首姫さんはそう言って柔らかな笑みを向けてくる。

 なんだか色気に溢れていてドキリとしてしまう。


「アっ、アタシだって夜彦さんと相性ばっちりっすよ!」


 葛后さんがそんな俺と首姫さんの間に割って入る。


「アタシの能力は【怪力】ですっ! 近接攻撃ならなんでも得意っす! 夜彦さんがネコダマシで相手をひるませてるスキにアタシがドガーンッ! と全部ぶっ飛ばせるっす!」


「そ、そうなんだ……確かにそれは強力そうだね」


「そうですね。夜彦さん、私たちかなりいいバランスなんじゃないでしょうか?」


 えーっと、そうなのか?

 葛后さんが近接攻撃が得意だから前衛で首姫さんが遠距離攻撃ができるから後衛かな。

 俺はどこだろう。

 攻撃手段がそろっているわけだから、ネコダマシで2人をサポートするのが良いんだろう。

 ってことは間をとって中衛かな?


「……確かに、前衛中衛後衛ってそろってるね」


「役割分担も完璧ですわ」


「そうなんっすか? アタシは目の前の敵殴ってればそれでいいんすよね?」


 おお、いい感じかもしれない。

 最低限のチームとしての基盤は固まっている気がする。

 

「それじゃあ改めて……俺たち3人はチームを組むってことでいいかな?」


「「もちろんです!」」


「ありがとう。よろしくね、葛后さん、首姫さん」


「「こちらこそっ! あとどうか下の名前でお呼びください」」「っす!」


「えっ?」


「アタシのことはザクロ、と」


「私のことはキスイ、と呼んでほしいですわ」


「えっ? えっ、ちょっと女の子をいきなり名前呼びはハードルが高いっていうか……」


「「どうかお願いします」」「っす!」


 2人に息ぴったりで同じお願いをされてしまう。

 いや、別に断る理由はないんだけど……。

 なんかちょっと照れくさいんだよな。

 まあ、でもせっかく呼んでほしいって言ってくれてるわけだし。

 

「じゃあ……ザクロ、キスイ」


「「はいっ!」」


「っ……」


 やっぱりこんな初対面でいきなり名前を呼ぶなんて照れくさい。

 でも、まあ2人の満面の笑顔を見ていると……まあまんざらでもないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る