食事のあとは、…… ひと騒動の巻
「おい、天蓬!」
「返事しちゃダメ!!」
私と
「返事をしたら、その瓢箪に吸い込まれてしまうわ!!!」
「黙れ! 女!」
「あぶない!!」
キン(金炉)さんの杖から飛び出した金色の光と大蛇がぶつかり、私の目の前で大蛇が霧散する。同時に、
「俺が相手だ」
「妖術を使えない
「さあ、どうします? 剣は届きませんよ?」
「金! 銀!」
天蓬さんの声と一緒に、キン(金炉)さんとギン(銀炉)さんが同時に金色の光と銀色の光を放った。
「雑魚が……」
さっきとは比べ物にならないほど大きな炎をまとった大蛇が二匹、壱の背後から現れる。その大蛇は、キン(金炉)さんとギン(銀炉)さんの光に絡みついた。ばりばりっと雷のような大きな音を立てて、光と大蛇が霧散する。
一瞬の隙をみて、
「……まあ、仕掛けがばれているので、……いいでしょう」
「きさまの狙いはなんだ?」
「世界の混乱とでも言っておきましょうか。幸せそうに飯を食べている人たちが大嫌いでね。誰かを妬んでどろどろとした感情に流されて、堕ちていく人を見ていたいんです」
「悪趣味だな。父上の死もお前の策か?!」
「私はただ、羅刹王子に『王子がいながら、王は
目をつぶっているか、開いているのかわからないくらい細い目が、繊月のように細長い弧を描いた。
「ふざけないでよ! 慰めているですって? それって、『王はお前を必要としていない』って言っているんじゃない! お父様の時だってそう。疑心暗鬼になるな物言いをして! 惑わせて、追い詰めて! ひどすぎるわ!!」
私は、悔しくって、天蓬さんの前に飛び出して、思わず叫んでしまった。
「お父様?」と壱の眉がピクリと動く。そして、急降下すると私の前に立ち、私をぐいっと引っ張った。ふわりと私の体が宙に浮く。
「水蓮!!」
天蓬さんが私をつかもうと手を伸ばしたけれど、届かず、私は壱と一緒に空に舞い上がった。壱が、私の眼鏡を飛ばして私の顔をのぞき込むと、眉をひそめた。
「スイレン? もしや、おまえ、燦の国の……」
「そうよ。貴方に唆された王の娘よ」
「生きていたのか」
「ええ」
『モーゥ』
「ハナさん!!」
「牛が宙を浮いている?!」
壱が取り乱したように叫んだ。そして、妖術で何匹もの炎をまとった大蛇が出現させると、ハナさんとハナさんの上にいる私を襲おうと大きな口を開けて近づいてきた。
『モーゥ』とハナさんが鳴く。すると、ハナさんとわたしは透明な膜のようなものに覆われた。それは、シャボン玉のように透明な膜。大蛇はその膜に触れると音もなく消えてしまう。
―― Good Job! ハナさん!
焦った
「尊師
馬の音が土煙と共に聞こえてきた。複数の衛士と馬に乗った人物だ。はっとしたような表情を浮かべると、
「これは、これは
「雷がいくつも大通りに落ちたと、衛士が血相をかえて俺に知らせに来たのだ。出ていかないわけにもいかまい?」
そういうと、
「……、ところで、
「はっ。なんでしょう。王子」
―― そのくせ! その瓢箪!
「お師匠様!!!」
『モーゥ』
私とハナさんが羅刹王子の姿をしていた老人に駆け寄った。お師匠様はなんでも化けることができるのだ。なんたって、
「となると、衛士達も……」
「大当たりじゃ!」
お師匠様がパンと手をたたくと、今までいた馬も衛士達が一瞬で消えた。お師匠様は自分の白髪を作ってなんでもコピーしてしまえるのだ。だって、
「でも、お師匠様、今までどこにいらっしゃったのですか? もしかして、瓢箪の中とか?」
「おお! さすが我が弟子! 大当たりじゃ。閉じ込められて、本当に退屈で死ぬかと思ったぞお。ん? 随分見ない間に、お前も大きくなったの。胸は相変わらずじゃがな。っほっほ」
思い出せば、
何が何だかわからないという顔をしている天蓬さん達に、ことの顛末を説明する。しばらく唸っていたけれど、理解したようで、天蓬さんが大きくうなずいた。
「そうか。それでは、さっきの
「そうじゃな。策士策に溺れるとはこのことじゃ。っほっほ」
「そうか。それで、
「わしが蓋を開けぬ限り、この中におる。殺すなら瓢箪から出さねばならぬが、どうする?」
「……、少し考えさせてくれ。王宮の状況を見てから答えを出す」
「かまわぬぞ」
「ところで、
「ほお」
「俺にかけられた呪いを解いてほしい」
「ほお。……構わぬが」と言ってお師匠様は言葉を切り、私の方を見た。
「呪いを解くとな、呪われていた時間、つまり、猪だった時の記憶もなくなるがよいか?」
「そ、それは……」
私も、天蓬さんといた時間が天蓬さんの中でなくなってしまうと考えたら、心臓がぎゅうっと締め付けられるように苦しい。
――、でも、私の思い出は私の中からはなくならない。それで十分じゃない?
私はそっと
――、水蓮! 唇の端をあげて笑いなさい!
「
「そうだな……。しかし、俺は、……」
「私の料理を美味しいと言ってくれて、本当にうれしかった。作ることの楽しさも、誰かと食べる楽しさも教えてくれてありがとう。本当に、
「そうだな。……、それでは、解呪を頼む……」
お師匠様が頷くと、呪文を唱え始めた。呪文の言葉と一緒に、
「
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