第七膳『春の訪れと天ぷら』(お題)
「王様は街の人に慕われていたのね」
私は窓や扉に飾られた
「そうだな」
「春祭りは例年通り開催するって衛士が言っていたね」
「そうだな」
「あとは、私の腕次第ね」
「策はあるのか?」
「まあね」
「では、頼んだ。水蓮の料理なら問題ない」
「ふふ。ありがと」
私は荷台から離れ、屋台の準備をしている
細かい設定をしておかないと
「王宮からだいぶ離れたところだけど、お客様、来るかしら? ねえ、スイ」
「大丈夫よ。け……、じゃない、お姉さま」
「そうよね。大きな虹えびもいっぱい手にはいったことだし、スイの腕前なら大丈夫よねー」
虹えびが今回のメイン食材。これを使って料理をする。料理方法は問わない。ただ、私たちは出だしが遅かったからすごく頑張らなきゃいけない。(街の人やらお役人がきて品定めをしていて、屋台の順位はほぼ出ていると衛士が親切に教えてくれた)
「それで、スイ様は何を作るつもりなのさ」とキン(
「肉のちらし寿司がいいー!」とギン(
「ギン。花祭りなのですから、虹えびの料理に決まっています。ねぇ、スイ」
「オレ、虹えびのゆでたやつがいいっす」
「じゃ、オレ、虹えびの甘辛炒め!!」
「私は、虹えびと言えば、やはり皮ごと焼いたものが……」
どの虹えびの料理がおいしいのか、話をしている
ほんと人生って何があるかわからない。不思議なものだと思う。
料理する事、食べる事を楽しめる日がまたやってくるなんて思いもしなかったもの。独りぼっちの生活は、生きるために食べるだけで、楽しみなんて何もなかった。
それが、
「天麩羅にするわ!」
「天麩羅!! やったー!」とギン(銀炉さん)が目をキラキラさせて小躍りしている。そう。天麩羅と言えばごちそうだ。でも、捲簾さんが「天麩羅ですか」と腕を組んでいる。天麩羅と言えば、塩・胡椒をつけてたっぷりの衣をまとわせたフリッターみたいなものがこの世界では主流。インパクトに欠けると思っているだわ。
――甘いわね。! 私が作るのは、『水蓮特製揚げたて天麩羅』!!
私は、江戸時代に屋台で食べていたという串にさした天麩羅をイメージしている。
一つ一つの具材を串にさしておいて、お客様に好みのものを選んでもらう。衣だってこだわって、薄力粉と片栗粉を使う。そして、肉用の衣には
それを目の前で揚げる。油の香りと音。料理を待つ時間。自分のためにという特別感。柑橘系の薬草入りの塩。そして、消化促進の薬草茶。五感を、脳を、フルに刺激してみせる。
「水蓮特製揚げたて天麩羅はね、揚げたての天ぷらなの! どれもこれも最高においしいわよ! 虹えびも揚げるけど、お肉も、野菜も揚げるわ。これから、お肉と野菜を買い出しに行って、どの食材を天麩羅にするか、みんなで決めようと思うの。買い出しに、行ってくれる人?」
「「はい」」
キン(
? 籠が宙を浮いているような??
「もしかして……て?」と言いかけたところで、キン(
「そっかぁ」と言いながら、なんだか嬉しくなる。
何が好きか、何が苦手か。何を食べたいか。そんな会話をしながら買い物をする。
みんなが楽しめる料理、わたしが作ることを楽しめる料理。
いつか。そう、いつか。
そんな楽しい料理を提供できるお店を開いてみたいな。
「どうしたんすか?」と腰のあたりを変にくねられているキン(
どうやらちょっとにやけていたらしい。
「天麩羅の具材を考えてたらつい、ね。春は美味しいものがたーくさんあるなーと思ってね」
天気は快晴。おいしい天麩羅をたくさん作って、料理大会に参加して、――優勝するぞー!!
そして、狐目の妖術士に会って、
だからこの時のわたしは気づいていなかった。この先、どんな未来が待っているかってことに…………。
****
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます